キャンディーズ 解散から41年。キャンディーズ 時代から女優になる夢を語り、実際に解散後は映画やドラマ、舞台で役者としてのキャリアを積み上げてきた伊藤蘭 さんがソロ歌手としてデビューすることが突然発表されたのは3月のことだった。ソロアルバムを出すとともにコンサートも行うという。
ファーストソロアルバム『My Bouquet』は5月29日に発売。1970年代から同じ時代の空気を共有していた阿木燿子 ・宇崎竜童夫妻や井上陽水 、森雪之丞 などの大御所からキャンディーズ 時代を知らない若手まで多様な作家陣が提供したヴァラエティに富んだ11曲からなる作品集だ。実際には今回のアルバムのために110曲も集まったというから蘭さんに自分の作品を歌ってほしいと考える人がそれだけ多くいたということなのだろう。
アルバムリリースの前後からテレビやラジオにも数多く出演し、まさに“ランちゃん祭り”状態だったから、世間的にも蘭さんのソロ歌手デビューは大きなニュースだったようだ。
もちろん、僕も早々にコンサートのチケットを入手し、アルバムも発売日に購入した。
アルバムは予想以上に素晴らしい作品だった。キャンディーズ の楽曲とは雰囲気が異なるのは言うまでもないが、それでも解散直前に出たキャンディーズ の自作曲集『早春譜』には通じるものがある。あのアルバムはラン・スー・ミキの3人が自作した曲をそれぞれソロで歌った作品集だったので、キャンディーズ のアルバムとしては異色だったが、そのぶん、今回の蘭さんのソロアルバムとは41年の歳月を飛び越えて直結しているように感じた。まだ音楽とデジタル技術が結びついていなかったキャンディーズ のアナログサウンド と今回のアルバムのデジタルサウンド では音の質感が違うのは当然だけれど・・・。
早春譜
アーティスト: キャンディーズ ,伊藤蘭 ,藤村美樹 ,田中好子 ,田辺信一,山田直毅 ,いしだかつのり,渡辺直樹 ,穂口雄右 ,渡辺茂樹 ,西慎嗣
出版社/メーカー: ソニー・ミュージックレコーズ
発売日: 1998/06/20
メディア: CD
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当時からランちゃんは作詞においてはアイドルが作詞にも挑戦してみましたといったレヴェルを超越した作品を数多く書いており、当時、藤蘭という変名でテレサ・テン にも詞を提供していたほどだが、今回も3曲で作詞をしている。
歌声はキャンディーズ 時代に比べるといくらか低くなったかな、と思うが、それでもファルセットの魅力は相変わらずだ。彼女のファルセットこそがキャンディーズ のハーモニーを唯一無二のものにした最大の武器のひとつだったのだ、と個人的には思っている。
とにかく、新しいアルバムを何度も何度も繰り返し聴きながら、今日6月11日、ついにファーストソロコンサートの初日を迎えた。場所はキャンディーズ の解散コンサートが行われた後楽園球場の跡地にあるTOKYO DOME CITY HALL 。ここは2008年にキャンディーズ 解散30周年を記念したイヴェント、全国キャンディーズ 連盟大同窓会が開催された場所でもある。当時はJCBホール という名称だった。
peepooblue.web.fc2.com
18時の開場直前に着くと、もう大行列ができていた。そして、入場してくるファンを撮影しようと玄関口でマスコミのカメラが多数待ち構えている。あちこちでインタビューを受けている人もいる。やはりおじさんが多いが、女性も少なくない。平均年齢が高めなのは当然だが、若い人も少しはいる。それにしても、全席指定なのに、なんであんなに早くから並んでいるのかと不思議に思ったのだが、どうやらグッズ販売が目当てらしかった。実際、売り切れ続出だったようだ。
大きく「禁止」と書かれた貼り紙があるので、何が書いてあるのかと思ったら、紙テープや旗やバナーの持ち込み禁止というようなことだ。いまだにステージに向かって紙テープを投げるようなファンがいるなどとは想像もしていなかったが、もしあえて禁止しなかったら、テープが飛び交っていたのだろうか。
僕はキャンディーズ の音楽を聴きながら、もし彼女たちが解散せずに音楽活動を続けていたら、ということをしばしば夢想したものだが、キャンディーズ のメンバーもファンも大人になって、落ち着いた雰囲気の中で大人っぽくアレンジされた演奏をバックに歌うキャンディーズ の歌声にじっくりと耳を傾ける、そんなライヴを思い描いていた。今回はキャンディーズ の曲もやると予想され、蘭さんのソロとはいえ、まさに僕が夢に思い描いていたようなライヴが体験できるのだろうと思い込んでいたのだが、紙テープや応援コールで昔のキャンディーズ のライヴの盛り上がりをそのまま再現したいと考えるファンがいたとしても不思議ではない。さて、どんなことになるのだろう。
それにしても、もうすぐ目の前で歌う蘭さんの姿を目にすることができるのかと思うと、感慨深い。
開場からし ばらくして、僕も長蛇の列の後ろに並んで入場。玄関からずっとたくさんのお祝いの花が並んでいる。キャンディーズ のマネージャーだった大里洋吉 さん、キャンディーズ の数々の名曲を作曲した穂口雄右 さん、阿木燿子 ・宇崎竜童夫妻、木梨憲武 ・安田成美夫妻、クリス松村 さん、小松政夫 さんなどなど。ピンクレディー のふたりからもそれぞれ来ていた。TRF からの花が出ていて、どういう繋がりがあるのかと思ったのだが、メンバーが今回の振り付けを担当し、ダンサーとしても出演していたのだった。
僕はアリーナの後方の席で、両側はおじさんだったが、前の席にはまだ若そうな女性がひとりで座っていた。会場には70~80年代の洋楽が流れていて、それも懐かしい雰囲気を盛り上げる。キャンディーズ 時代、蘭さんは好きなアーティストとしてキャロル・キング の名前を挙げていたが、彼女の曲も流れた。
客席が全部埋まって、いよいよオープニング。ステージを覆い隠すスクリーンに「1978年4月4日、後楽園球場でキャンディーズ 、伝説の解散コンサート」といった文字が浮かび上がる。41年の時を越えてあの時とこの時を結び付けるような演出。昨年の初夏から蘭さんのソロ歌手としてのプロジェクトが始まり、アルバムのレコーディング、発売を経て、ついにコンサートが開幕というわけだ。客席にじわじわと興奮が広がっていく。
幕が開くと、真っ白なドレスに身を包んだ蘭さん登場。
11年前の大同窓会の時、ステージ上にはその場にいないラン・スー・ミキのための白いスタンドマイクが用意されており、胸が熱くなったものだが、今日はその同じステージに蘭さんが立っているのだ。
1曲目は「walking in the cherry」 。門あさ美 作詞・作曲によるミドルテンポの曲だ。隣のおじさんがペンライトを点灯させ、曲に合わせて、ゆったりと左右に振っている。それが数秒おきに視界に入り、気になるといえば気になるが、まぁいいか。蘭さんの歌う姿と声に集中する。
1曲終わって、蘭さんの挨拶。41年ぶりの歌のステージということで、緊張気味ではあるが、それも楽しんでいる様子。なにしろ、現代のような巨大スタジアムでのライヴのノウハウも技術も確立されていない時代に後楽園球場で5万5千人を前に歌っていた人なのだ。ユーモアを交えたトーク にも余裕がある。
「私だけに集中しないで、バンドやステージのセットも見るようにしてくださいね」
客席からは「ランちゃ~ん」「おかえりなさ~い」といった声が飛び交う。還暦を過ぎた人も少なくないであろうおじさん達を一気に40年前に連れ戻す魔法のような時間。初めて蘭さんの歌声を生で聴く身としても感無量である。
続いて「恋とカフェインとスイーツと猫舌」 、井上陽水 作「LALA TIME」 を続けて。どちらもいい曲。そして、蘭さんの歌声、相変わらず魅力的である。
このあと、衣装が一瞬で赤と黒 のワンピースに早変わり。
キャンディーズ ファンであるトータス松本 の「ああ私ったら!」 。「年下の男の子」と結婚した女性をテーマにした曲で、弾むような曲調が印象的だ。蘭さんがかつてトーク 番組で結婚記念日や誕生日などを夫婦そろって忘れていることがよくある、という話をしていた記憶があるので、トータス松本 もそれを知っていて、この詞を書いたのではないだろうか。
ギター、キーボード、ベース、ドラムス、パーカッション、サックス&フルート、トランペット、トロンボーン という8人編成のバンド(ギターをもう一人加えればキャンディーズ の専属バックバンドMMPと同じ編成)に女性コーラス2名が加わり、蘭さんのヴォーカルを的確にサポートし、バランスもばっちりだ。
さらにアルバムを一聴して気に入った「秘密」 。かっこいい。そして、蘭さんのファルセットが聴ける。本当に41年のブランクを感じさせない歌いっぷりだ。
そして、伊藤蘭 さん作詞の2曲「ミモザ のときめき」 と「Wink Wink 」 が続く。
作詞の苦労について語った後、キャンディーズ 時代に作詞した曲ということで、来た~っ!!!
知っている人は知っている曲ということで紹介された「恋がひとつ」 と「アンティック・ドール」 の2曲。「恋がひとつ」は予想外の選曲だったが、「アンティック・ドール」は今の蘭さんに歌ってほしいな、と思っていた曲のひとつで、本当に聴けるとは、と嬉しかった。というか、嬉しすぎて涙が出た。自作曲とはいえ、かなりキーが高いので、高音部でちょっと苦戦しているようにも聞こえたけれど・・・。
41年前の解散コンサートでこの曲を歌った時、フランスで買ってきたという人形を抱いていたが、あの人形は今も蘭さんのもとにあるのだろうか?
10曲目が阿木燿子 作詞・宇崎竜童作曲の「Let's ・微・Smilin'」 。
11曲目、岡恵美子作詞・陣内大蔵 作曲の「マグノリア の白い花」 。この美しい曲は2011年に亡くなったスーちゃんに捧げた曲とも解釈できる。
「Ahーいつまでも
一緒にいたいと
そう願ってた
明日もずっとずっと会えると信じてた
Ahーいつまでも
あなたの声を
聞いていたかった
明日もずっとずっと会えると信じてた」
曲間にメンバー紹介を兼ねて各楽器のソロをつないだインスト曲が演奏されたり、ダンサーのパフォーマンスをフィーチャーしたりして、それが衣装チェンジの時間であると同時に1曲1曲の世界観を際立たせるための場面転換の役割も果たしている。
そして、蘭さんの詩の朗読が始まる。止まっていた時間を再び動かすための三つの鍵というような内容。うわっ、なんか来そうだぞ。「三つ目の鍵は音符の形をした鍵」。「3」だ! 「音符」だ!!
来るぞ、来るぞ!!!
朗読が終わると同時に地鳴りのようなサウンド 。何だ、このかっこいい音は。そして、それはあのイントロのメロディーに繋がっていく。「春一番 」 !!!
黒のレザージャケットに黒のパンツという姿で振り付けも昔のままに歌う蘭さんの声がランちゃんの声になった。会場全体が大興奮に包まれたのは言うまでもない。コールも全開。「ランちゃ~ん」だけでなく「スーちゃ~ん」「ミキちゃ~ん」の声も飛ぶ。「C・A・N・D・I・E・S Hey!」。
僕はといえば、ソロコンサートをやると知った時、キャンディーズ 時代のアイドルソング よりも現在の伊藤蘭 さんの歌を聴きたいと思っていたのだが、やっぱりこうして実際に聴いてしまうと感動してしまう。聞けてよかった。
立て続けに「その気にさせないで」 。そんな曲まで?! カッコよすぎる。
さらに「ハートのエースが出てこない」 。まさかこんなにやってくれるなんて! しかも、全部フルコーラスだ。
こうなったら「年下の男の子」 も当然のように続く。マイクを持っての歌唱で、あの有名な振り付けは完全再現ではなかったけれど。
最近のインタビューで蘭さんはキャンディーズ についてハーモニーの豊かさ、ユニゾン の力強さ、ソロでも3人それぞれの個性があり、最強のコーラスグループ だったと語っているが、本当にそう思う。もう3人が揃うことは不可能になってしまったけれど、美樹さんもいつか蘭さんの隣でステージに立ってくれたら、と思ってしまう。ふたりの声の相性は抜群だったと思うから・・・。
ある人々はペンライトを振り、ランちゃ~んと叫びながら熱狂し、またある人は涙を流しながら静かに感動し・・・。反応の仕方は人それぞれだったけれど、誰もが感動でいっぱいになったのは間違いない。キャンディーズ の3人が後楽園球場のステージの奈落に姿を消してから41年も経って、まさかこんな体験ができるとは・・・。
蘭さんは振り付けについて、次回までにブラッシュアップしたいと言っていたが、今から次回が楽しみだ。そう、これはファーストソロコンサートなのだ。ファーストがあるからにはセカンド以降もあるということなのだ。
盛り上がりが最高潮に達したところで、本編最後は蘭さん作詞の「女なら」 。アルバム収録曲の中で一番歌謡曲 っぽい作品。
そして、アンコールは「あかり」 だった。
全17曲。2時間弱のコンサート。終演後、夢から覚めたような不思議な気分になった。
VIDEO www.youtube.com
もし次回のコンサートでキャンディーズ の楽曲を取り上げるとしたら、例えばこんな曲はいかがでしょうか。
「片想いの午後」「Moon Drops 」「悲しみのヒロイン」「Moonlight」「ろうそくの灯に」・・・。今の蘭さんに歌ってほしい曲はほかにもいくらでもあるけれど・・・。