高尾山でムササビ観察 


(高尾山頂のビジターセンターに展示されている剥製。2016年春撮影)
  
 東京都高尾自然科学博物館(2004年3月末で閉館)が主催するムササビ観察会に参加してきた。
 高尾山は東京都民には最もなじみ深い山のひとつだが、知る人ぞ知るムササビ観察のメッカでもあるのだ。
 イベント案内で事前に情報を得て、参加を申し込んだのだが、定員40名のところに倍近い応募があったらしく、抽選で参加OKとなった。
 観察会は14時半からで、開始20分前から高尾山麓の自然科学博物館で受付。参加費としてケーブルカー乗車賃と行事災害保険料の合計850円を徴収され、ムササビに関する小冊子を渡される。
 まずは博物館内の講堂でムササビに関する講演を聴く。講師は長年高尾山のムササビ観察を続けている都立高校の生物の先生。ムササビは体長が尻尾の長さも含めて80センチほどであること、ほとんど木の葉や実など植物質の餌しか食べないこと、統計的に日没後30分前後で巣穴から出て活動を始めること、などの知識を得る。
 その後、参加者を4班に分け、16時15分発のケーブルカーで高尾山に登り、観察場所となる薬王院へ向かう。高尾山では山頂から山麓まで多数のムササビが生息しているようで、スギやケヤキの幹に開いたウロや神社仏閣の屋根裏などを巣として利用しているという。
 日没前に薬王院の境内で巣穴や食痕(ムササビが齧った葉っぱなど)やフンなどを見つけた後で、17時半から各自用意した弁当で夕食タイム。さすがにムササビ観察の名所だけあって、我々以外にも多数のグループが来ていて、結構な賑わいである。
 すっかり日が沈み、18時頃から観察再開。ムササビが棲みついているという鐘楼の下で待つ。
 日没からちょうど30分ほど経った18時25分、ついにムササビが屋根裏から顔をのぞかせた。2匹いるから親子らしい。大きめのリスのような姿が赤い色のライトに照らし出される。しかし、警戒しているのか、なかなか外へ出ようとしない。赤い光なら大丈夫だが、懐中電灯などの普通の白い光を当てるとムササビが驚いて出てこなくなるので当てないように、と注意されていたにもかかわらず、懐中電灯で照らそうとする馬鹿者(我々とは別グループ)がいて、「おい、光あてるなよ」と非難の声が上がる。
 その場に苛立った空気が漂い始めた頃、ついに「あ、出た、出た!」という声が上がった。
 屋根裏から出たムササビの親子は相次いで近くの木に飛び移り、幹をよじ登り始めた。そして、木のてっぺん付近まで登るとジャンプ。我々の頭上を尻尾のついた座布団みたいに飛膜を広げて滑空し、山の斜面の下のほうへ姿を消した。
 その後、ムササビが餌場にしている桜の木などをあちこち歩き回ったが、結局、もはや彼らの姿を目撃することはできなかった。
 ほかに収穫といえば、秋の虫カンタンの声が聞けたこと。コオロギなどに混じって、草むらで「ルルルルルル…」と低く鳴いていた。今夜は「カンタンの声を聞く夕べ」といった催しも開かれているのだった。
 とりあえず、ムササビに会えて満足し、でも、もう少し見たかったという思いも消えないまま、19時45分発のケーブルカーで下山。麓の清滝駅前で閉会式の後、解散。


(ムササビの巣穴。2016年春)