モシリ/ウレシパ・モシリ〜互いに育てあう世界 (1993)

 アイヌ詞曲舞踊団「モシリ」。こう書いても、ほとんどの人はピンと来ないと思うが、坂田明(サックス&クラリネット)、吉野弘志(ウッドベース)、フェビアン・レザ・パネ(キーボード)、吉田哲治(トランペット)、八尋知洋(パーカッション)というゲストミュージシャンの豪華な顔ぶれを見たら興味を持つ方もいるかもしれない。また、22分24秒、6分14秒、13分55秒、7分11秒という収録4曲の長さにも、ある人は興味を引かれるだろうし、たじろぐ人もいるだろう(後者のほうが多い?)。
 僕が彼らを知ったのは、北海道旅行中、屈斜路湖畔の「丸木舟」という店で食事をしたときのことだった。店内に流れていたのが、これ。その不思議な魅力を持った音楽に思わず耳を奪われてしまった。様々なパーカッションとアイヌの民族楽器ムックリ、小川のせせらぎを思わせるピアノが謎めいた森の奥に迷い込んだような雰囲気を醸し出し、地を這うようなウッドベースクラリネットや神秘的な女声コーラスが不思議に重なり合って、めくるめく世界を展開していく。土俗的かつ宇宙的、古代的かつ現代的、素朴でありながら洗練された音楽。アイヌの音楽というと2004年に亡くなった安東ウメ子さんの素晴らしい作品が話題になったが、モシリはシンセや打ち込みのリズム(予算の都合?)なども使っている分、よりモダンな響きを持っていると言える(曲によっては陳腐にも響きかねないが…)。
 彼らは現在13枚ものアルバムを発表しているが、これは5作目。僕が店で耳にしたのはその3曲目だった。迷わず買った。はまった。いつのまにか、13枚全部揃えてしまった。今でも13枚のうち、これを聴くことが一番多い。あとは1作目「カムイ・チカプ(神の鳥)」。
 ところで、彼らはアイヌ詞曲舞踊団を名乗っている。つまり単なる音楽グループではない。彼らの本質はライブを見ないと分からない。アイヌの伝統的な歌と踊りをベースに最新のテクノロジーも導入しながら呪術性をも感じさせるパフォーマンス。僕は北海道で3回、東京で2回見たが、そのたびに圧倒される。ライブビデオがVHSとLDで出ていたが、いつのまにかVHSがカタログから落ちてしまった。DVD化を期待。21世紀に生きるアイヌの文化を創造し続ける「モシリ」のことを少しでも多くの人々に知ってもらいたいと思う。
 ちなみに、彼らのCDは一般のお店では売られておらず現地か通信販売でのみ入手できる。

モシリの公式サイトはこちら