MILES DAVIS/Kind of Blue (1959)

 夏の夜、部屋を真っ暗にして、この作品を聴く。1曲目、ビル・エヴァンスのピアノとポール・チェンバースのベースによるイントロが始まった瞬間から暗闇がサーッと青く透き通り、部屋の空気がひんやりしてくるように感じる。とりわけ3曲目“Blue in Green”はピアノのイントロからトランペットやサックスのソロまで、すべての音に全く無駄がなく、これ以外の音の配列は考えられないというぐらい完璧に聞こえる。しかし、それも即興の産物であった。このレコーディングセッションを失敗テイクも含めて完全収録したブートレグ盤を聴くと、この曲のイントロもエヴァンスは毎回違うパターンで弾いている。各メンバーはその場でスケッチ程度の譜面を渡され、手探り状態で演奏しながら、数度の失敗・中断を経て、ようやく完奏できたテイクがアルバムに採用されているのだ。収録曲のすべてが、まさに神がかり的な名演。絶品。ジャズの奇跡がここにある。
 はじめ、友人から借りたCDをカセットに録音して聴いていたのだが、ある日突然、このアルバムはやはり自分で買わなくては、と思い、CDを買って帰ると、新聞の夕刊がマイルスの死を報じていた。あれから今日でちょうど20年。