越谷オサム『階段途中のビッグ・ノイズ』(2006年)

階段途中のビッグ・ノイズ (幻冬舎文庫)

階段途中のビッグ・ノイズ (幻冬舎文庫)

 高校の軽音楽部を舞台にした青春小説。マンガ/アニメの『けいおん!』は女子校の軽音楽部のまったりした日常を描いた作品だが、こちらはその男子版とも言えるかも。ただ、もっと熱い。優雅なティータイムなんてもちろんない。でも、爽快であり、痛快でもある。こちらは共学校だから、恋愛の要素も彩りを添えている。実にイイ。素晴らしい。ロックンロール!

 上級生2名が麻薬事件で逮捕され退学となった軽音楽部にただ一人残された部員・神山啓人は校長から廃部を申し渡される。伝統ある軽音楽部も今や風前の灯の状態で、部室すらない。活動場所は校舎の屋上へ通じる階段。啓人は屋上で煙草(実はマリファナ)を吸っていた先輩たちから見張り役を命じられ、いつも階段でひとり寂しくギターを弾いていたのだった。
 その階段で最後の片づけをしていた啓人の前に現れたのが同級生の九十九伸太郎。実は彼も軽音楽部の幽霊部員。先輩の不祥事により啓人の活動の場までが奪われる理不尽さに腹を立てた伸太郎が校長室に乗り込んで、廃部を取り消させてしまうところから、物語は始まる。
 周囲から冷たい視線を浴びながら、啓人と伸太郎は部員を集め、バンド活動を始めようと奔走する。目標は文化祭での一発ドカン!
 ようやくメンバーが集まったものの、不協和音が絶えず、なんとか見つけた顧問もあまり頼りになりそうにない。学校側から厳しい条件を課された中で活動する新生・軽音楽部は文化祭での演奏を成功させることができるのか。

 とにかく、越谷オサム作品の共通の特徴として、登場人物がそれぞれに魅力的で、愛おしくなる。主人公は啓人だが、他のメンバーの視点から語られるパートもあり、読んでいるうちにそれぞれの人物に感情的に寄り添っていき、物語に引き込まれてしまう。このあたり、この人はうまいなぁ、と思う。
 とくに啓人がひそかに恋心を抱く大野亜季みたいな、ただの美少女ではない、活発で明るい女の子を描かせたら天下一品だね。
 これ、アニメ化したらいいのに、と思ったら、コミックスにはなっているんですね。いずれアニメに、なんて展開になるかも?!