モルゴーア・クァルテット/21世紀の精神正常者たち

21世紀の精神正常者たち

21世紀の精神正常者たち

 ショスターコヴィチの作品を演奏することを第一の目標に結成されたクラシックの弦楽四重奏団モルゴーア・クァルテットによるプログレッシヴ・ロック名曲集。
 彼らは1998年にも同様の作品を出していて、その時も僕は買おうと思いつつ買わなかったのか、買ったけど、その後、手放してしまったのか、その辺の記憶が定かではない。とにかく、今回は14年ぶりの第2集である。
 選ばれたのは、キング・クリムゾンの「21世紀のスキッツォイド・マン」「クリムゾン・キングの宮殿」「スターレス(暗黒)」、ジェネシスの「月影の騎士」「アフターグロウ」、ELPの「悪の教典#9第一印象パート1」、ピンク・フロイドの「太陽讃歌」「マネー」、イエスの「同志」、そして、メタリカ(!)の「メタル・マスター」の10曲。メタリカ以外はいわゆるプログレ4大バンドからの選曲である。
 そもそも、プログレッシヴ・ロックというのは1960年代後半から70年代前半にかけて隆盛を誇ったロックの一形態である。要するに、その時代において利用できる、あらゆる楽器、つまりクラシック系の楽器からエレクトリック・ギターなど、ロック系の楽器、最新の電子楽器、あるいは民族楽器など、必要とあれば、何でも駆使して、クラシックや現代音楽、ジャズやロック、あるいは民族音楽など、あらゆる音楽の要素を貪欲に取り込み、自分たちのやりたい音楽を、やりたい放題に、やりまくった、なんでもありの音楽のことである。
 それはクラシック以来の西洋音楽の伝統をふまえつつ、新たに登場した現代楽器を取り入れ、世界各地の様々な音楽要素を取り込んだ結果として誕生した音楽ともいえ、これをクラシックの音楽家たちが演奏することは、ある意味で必然的な流れであるようにも思う。将来的には多くのプログレ楽曲がクラシックのレパートリーになっていくであろうことも予想されるし、それはすでに現実化しつつある(吉松隆によるELPの「タルカス」のオーケストラ編曲などが最近の例)。
 で、今回のモルゴーア・クァルテットである。こういうロック系の楽曲をクラシックの演奏家がやると、なんだか面白みに欠けるものになりがちなのだが、これはかなり面白い。まぁ、オリジナルの魅力には及ばないが、けっこう楽しめた。こういう試みの積み重ねによって、ロックも古典になっていくのだろう。

 それにしても、このジャケット。クリムゾンの1stを意識したものなのは分かるが、気持ち悪すぎないか。アルバムタイトルもセンスがイマイチだし…。