荒川ロックゲート

 日曜日に葛西臨海公園までサイクリングした際、帰りに荒川沿いを走ったら、荒川ロックゲートをちょうど船が通過中だった。サイクリストや家族連れが見物している。
 荒川ロックゲートとは荒川と旧中川を接続する閘門。
 荒川は東京湾の潮の干満の影響を受け、A.P.0メートルからA.P.2.1メートルの間で水位が変化する。A.P.とはArakawa Peilの略で、東京湾の干潮時の最低水位を0とした水位の基準である。Peilはオランダ語で基準、水準を意味し、明治初期に潮位観測やそれに基づく水準測量をオランダ人技師が行ったため、オランダ語が使われている。
 その荒川と隅田川に挟まれた江東デルタ地帯はかつて天然ガス採掘のための地下水汲み上げにより激しい地盤沈下に見舞われ(最大で4.5メートルぐらい沈下)、東京湾の海面より低い土地が広がっている。いわゆるゼロメートル地帯だが、実際には干潮時の最低水位より低い土地すら存在し、周囲をぐるりと堤防で囲むことで水没を免れているような状態だ。そのため、この地域の河川は人工的に水位を下げ、ポンプで水を外部に排出することで、A.P.−1メートルを保つように調節されている。
 その水位低下河川である旧中川と潮の干満の影響を受ける荒川では最大で3.1メートルの水位差が生じることになる。この水位差を維持するために、両河川は水門によって隔てられていたのだが、それでは船が通れない。そこで、船の通航を可能にするため、水門を2つ設置して、その間の水位を上げ下げすることで、両区間を船が行き来できるようにしたのが2005年10月に完成した荒川ロックゲート。水門好きにはたまらない施設で、観覧席(?)まである。
 その荒川ロックゲートをちょうど船が通っていたのだ。旧中川から荒川に出て行こうとしているところだった。


 水位の高い荒川に合わせるため、2つの水門に挟まれた閘室内に荒川から注水し、水位を上げている最中だ。


 水位調整が完了すると、荒川側の水門が開く。東京湾岸や運河などに水門は多数あるが、こんな風に動く瞬間というのは滅多に見られるものではない。それがここでは頻繁に見られるわけだ。
 大量の水を滴らせながら、水門が上がると、閘室から船が出てきた。東京スカイツリー完成とともに改めて脚光を浴びている運河クルーズ用の船らしいが、お客は乗っていなかった。

(徐々に水門が上がっていく)

(船が出てきた)
 船が出ていくと、入れ替わりで、今度は荒川から旧中川に入る屋形船がやってきた。これはお客が乗っていて、最前部でカメラを構えている人たちがいるから、荒川ロックゲート通航体験がひとつの目玉なのだろう。


(屋形船がロックゲートに入っていく)
 船が閘室内に入ると、水門が閉じられる。



 水門が完全に閉鎖されると、再び水位調整が始まる。この時の荒川と旧中川の水位差は2.2メートルだった。旧中川はA.P.−1メートルで一定しているから、荒川の潮位はA.P.+1.2メートルだったことになる。

 今度は閘室内の水を旧中川に排水することで、水位を下げていく。


 電光表示の数字がどんどん小さくなり、やがて水位調整完了。

 旧中川側の水門が開き、屋形船は旧中川へと出ていった。




 このような閘門は都内ではほかに隅田川と旧中川を結ぶ小名木川の中間地点に設けられた扇橋閘門があるが、せっかくこのような水路網が発達しているのだから、水上観光がもっともっと盛んになってもいいのでは、と思う。
 珍しいシーンに出くわしたので、ちょっと詳しくレポートしてみました。