越谷オサム『いとみち・三の糸』

いとみち 三の糸

いとみち 三の糸

 母親を早く亡くし、祖母に育てられたおかげで、地元の人からも「は?」と聞き返されるほど濃厚な津軽弁を話し、そこにコンプレックスをもっていたため極端な人見知りで引っ込み思案。友達も少ない。そんな欠点を克服したくて高校入学とともに青森市メイド喫茶でアルバイトを始めた女子高生、相馬いと。一方で彼女は三味線では賞をとったことがあるほどの腕前でもある。
 先輩メイドの智美から「なにその萌え記号の詰め合わせ。背がちっちゃくて黒髪ロングでメイド服で貧乳で泣き虫でドジッ娘で方言スピーカーで、おまけに和楽器奏者? あんた超人か」とヘンな褒められ方をしたこともある彼女の青春を描くシリーズの第三弾にして完結編。
 高校3年生に進級した、いと。当然、受験生としてアルバイトばかりしているわけにもいかない。しかし、先輩メイドの智美がマンガ家になるため東京へ行ってしまったのと入れ替わりに妹のチハルが新人メイドとして入ってくる。彼女の問題児ぶりに、いとは黙っていられない。
 高校の写真部の活動も引退しなければいけないが、中学相撲部出身の後輩男子、鯉太郎が唯一まともに会話ができる男子として、だんだん気になる存在になっていく。
 大学のオープンキャンパスで東京へ行けば、津軽弁が通じず、「自動販売機」が「寸胴、半泣き?」と聞き返されたりして、落ち込む。
 それでも、彼女は自分の目指す道を見つけて、新しい一歩を踏み出そうとする。
 三作を通して、ほのぼのとした雰囲気なのは変わらないが、いとの成長とともに作品も成長して、今作が一番いい。
 そしてラストで、高校を卒業して大学進学のため故郷をあとに巣立っていく、いとが見送りの人々を前に語る言葉が泣かせる。なんだか感動した。第一作を読んだ時は、ほのぼのとして、まぁ面白い、といったぐらいだったが、最後まで読み終えると、帯にある「青春小説の金字塔」のキャッチコピーがあながち言い過ぎではないような気すらしてきた。もう一度、最初から読み返そう。
 越谷オサム作品の共通の特徴として、登場人物それぞれのキャラクターがとてもイキイキと描かれ、それが作品の魅力を高めている、というのがあるが、この作品もまさにそう。会話がほぼ全編津軽弁というのもいい。新しいキャラクターも登場し、おまけに今回はびっくりするような大物の実在人物が突然出てきたりもする。
 このシリーズ、ここで終ってしまうのは惜しい。後輩メイドの「こまちゃん編」でもいいので、続きが読みたいなぁ。

いとみち

いとみち

いとみち 二の糸

いとみち 二の糸

 ところで、この作品、津軽三味線の演奏シーンの描写が秀逸で、興味をもったのだが、たとえば、いとがメイド喫茶で披露するミニコンサートというのはこんな感じなのかな。