クリス松村『「誰にも書けない」アイドル論』

これまでクリス松村という人物に特別な関心はなかったが、この本を読んで、だいぶ印象が変わった。良い方向に。
父親が外交官で、オランダ・ハーグ生まれ。クラシック以外は音楽ではない、というような家庭で育った彼が歌謡曲と出会い、親に内緒で密かに購入したレコードの話から、海外の学校でいじめに遭う中で洋楽・邦楽を問わず「音楽」だけが友達になっていく話など、彼の個人的な物語と絡めて、1970年代以降の日本のアイドル史が語られる。こういうのは普通の概論的な本より面白い。
とにかく、その知識量、情報量が半端ではない。誰でも知っている有名アイドルだけでなく、あぁ、そんな人いたなぁ、と忘却の彼方から蘇ってくる名前、さらに、そんな人いたの?と思うような全く知らない名前まで、出てくる、出てくる。この人はなんでこんなに詳しいのか、と思ってしまうが、所有するレコードは2万枚以上というコレクターで、『平凡』や『明星』のようなアイドル誌オリコンを毎号欠かさず購読し、しかもすべて保存しているのだ(一度、父親に見つかって全部ゴミとして捨てられたものの、その後、収入のほとんどをつぎ込んで、すべて再収集。以後、父親とは絶縁状態だとか)。
膨大な資料、データをもとにした客観性の高いアイドル論は内容が濃く、分析もけっこう鋭い。
巻末には竹内まりやとのアイドルソングに関する対談も収録。