MAGMAライヴ

 結成45周年を迎えたフランスの音楽集団、MAGMAが5年ぶりに日本にやってきた。
 「音楽集団」などという言い方をしたのは彼らを「ロックバンド」と呼ぶことになんとなく違和感があるからなのだが、一般にはプログレッシヴロックに分類される彼らの音楽はクラシックやジャズやロックやソウルのエッセンスを感じさせながら、そのいずれとも異なる、他に類を見ない独特なものだ。
 リーダーのChristian Vanderが敬愛するジョン・コルトレーンの死後、彼の音楽と精神を継承すべく結成したMAGMAはその名前の通りに後期コルトレーンの火を噴くような熱い音楽をベースにヨーロッパ的な、たとえばストラヴィンスキーやオルフを思わせる要素も持ち合わせ、激しく、重く、どちらかといえばダークな印象が強いが、凄まじい嵐のような演奏の果てに暗雲が切れて陽が射し青空が広がるようにすべてを浄化するような美しいパートが訪れるその瞬間のカタルシスが魅力でもある。
 こういうバンドが日本にやってくる、などということはかつては想像できなかったことだが、1998年の初来日以来、これが6度目になるのだろうか。僕は前回のフジロックフェスへの出演は行けなかったが、それ以外は毎回足を運んでいる。
 そして、今回は先月末の中国での3回の公演に続くツアーで、6月3日に大阪、4・5日が東京という日程で、今日が日本での最終日。予報よりだいぶ早く降り出した激しい雨の中、渋谷のO-EASTへ向かった。道玄坂を大量の雨水が谷底の渋谷駅方面へ激しく流れていた。
 開場は18時半、開演が19時半。全席指定で座席が用意されたフロアは開演までに満員になった。客席には外国人の姿も目立ったし、女子もいる。彼氏に無理やり連れてこられた、というのではなく、ひとりで来ている子がけっこういた。僕の周囲でMAGMAを知っている女性なんて会ったことも聞いたこともないが、いるところにはいるものだ。まぁ、フランスではマグマのコンサートに子どもも含めた老若男女が普通に集まり、みんなが楽しんでいるらしいし、子ども向けの教育プログラムの一環でマグマの曲を子どもたちが演奏し、大合唱するという音源がCDとして発売されたりもしているわけだが…。
 さて、ステージ上には中央奥にドラムセット、向かって右にフェンダーローズ(エレクトリックピアノ)、左にヴィヴラフォンが向き合うように配置されている。客席からみてドラムの右にベース、左にギターというのはいつも通り。ヴォーカル用のマイクスタンドは3本。きわめてシンプルなセッティングだ。



 さて、予定より少し遅れて客席の照明が消えると一斉に拍手と歓声が起こり、メンバーが登場。
 今回の来日メンバーは8人。ピアニストが交代したほかは前回の来日時と同じだ。
Stella Vander(vocal,percussions)
Isabelle Feuillebois(vocal,percussions)
Herve Aknin(vocal,percussions)
Benoit Alziary(vibraphone)
James MacGaw(guiter)
Jeremie Ternoy(piano)
Philippe Bussonnet(bass)
Christian Vander(drums,vocal)

 1曲目はエルヴェの「ハマタイ!」の掛け声とともに始まった「コンタルコス」。
 へヴィな演奏と圧倒的なコーラスで会場も盛り上がる。
 今年で67歳になったクリスチャンのドラミングは全く衰えを知らない。ただリズムを叩きだすだけでなく、一音一音に明確な表情がある。
 やはり60半ばのステラの声もまったく変わらない。見た目はだいぶ変わったけれど…。
 昔のマグマではドラム、ベース、ピアノに比べてギターの比重が低かったような気がするが、ジェームズは今では不可欠な存在になっている。
 そして、ヴィブラフォンの活躍ぶりも鍵盤打楽器好きとしては嬉しい。マレットで叩くだけでなく、ヴァイオリンの弓のようなもので鍵盤をこするようにして音を出したりもしていた。

(2015年4月25日、エストニアでのマグマ。「コンタルコス」後半)
 2曲目は今年CDが発売された新作の「シュラグ・タンズ」。2009年の来日時にも新曲として演奏されたが、当時は10分程度の曲だったのが、その後、発展し、新しいパートが加わって「へヴィ・メタル交響楽」と形容される20分を超える曲になっていた。
 3曲目はヴィブラフォンがあのイントロを奏で出し、客席がまた大いに沸いた「M.D.K」。中間部の長いベースソロに代わって、クリスチャンのヴォーカルパートが加わる新しい展開だった。相変わらずコルトレーンの魂が乗り移ったかのような歌いっぷりで、客席に感動が広がっていく。
 曲が終わった時、会場は一気に総立ちとなった。まだ3曲目だが、これで本編終了。なにしろ、1曲がすべて30分前後はある長尺曲なのだ。でも、圧倒され通しで曲の長さを感じないせいか、なんとなく呆気ない感じがしないでもない。
 アンコールはステラによるメンバー紹介の後、「ゾンビーズ」だった。
 終演は21時20分頃。
 素晴らしい演奏で満足はしたけれど、もう少し聴きたかった気もする。