都民の森(その2)

 東京都の山奥・西多摩郡檜原村の標高1,000〜1,500メートルにまたがる広大な都民の森で開催された自然観察会にまた参加している。今日はその2日目。15日、日曜日。
 都民の森には宿泊設備がないので、参加者は拠点施設・森林館の思い思いの場所で持参(または無料レンタル)の寝袋に潜り込んで寝て、僕は3時過ぎに目が覚めた。この5月の観察会では特に未明から夜明けにかけての時間帯が素晴らしいのだ。
 ちょっとテラスに出てみた。昨夜、星空を眺めている時は山の稜線付近でキョキョキョキョキョキョキョキョ…とヨタカが盛んに鳴いていたが、今は静かだ。空もまだ真っ暗で、いつの間にか曇ってしまって星も見えない。こんな時間でもヨタカやトラツグミが鳴くことがあって、僕はそれを期待していたのだが、今回はトラツグミのあの不思議な声は聞くことができなかった。昔の人々が鵺(ヌエ)の声だと畏怖した神秘の存在の正体であるわけだが…。
 一度、室内に戻って、また寝袋に潜り込み、4時前にまた起きる。こんな時間に起きる物好きはいつもはあまりいないのだが、今日は何人かが同じように起きてきた。
 3時50分頃の都民の森。空はほのかに明るくなっている。


 間もなくカッコウの仲間、ジュウイチが鳴きだした。ジュウイチ、ジュウイチと鳴くからジュウイチなわけだが、まだ暗い空から降ってくるその声もまた不思議な気分にさせてくれる。


 空気がかすかに青く澄んできた山の中で鳥がさえずりだした。1羽が鳴けば、また1羽、さらにまた1羽。オーケストラの楽器がひとつひとつ加わるように、山全体に野鳥の歌がじわじわと広がっていく。オオルリキビタキヤブサメミソサザイ、ウグイス、ヒガラ、センダイムシクイ、マミジロ、アカハラツツドリアオゲラアオバト…。我々はただ聴き惚れるだけだ。なんて豊かな時間だろうか。





 すっかり明るくなって、野鳥の声だけでなく、姿も確認できるようになってきた。
 カケス、アオゲラアオバトアカゲラヤマガラシジュウカラキセキレイミソサザイ…。
 山上の針葉樹の枝先でオオルリの姿も見つけられた。オオルリは比較的目立つところでさえずるので、声のする方を探せば、わりと簡単に見つけられる。


 これもオオルリ。遠い…。

 僕のカメラではこの程度だが、高倍率の望遠鏡だときれいに見えた。
 あそこにオオルリがいる、あの木にアオバトがいる、などといいながら、望遠鏡や双眼鏡を覗いたり、それぞれに朝食をとったりしながら満ち足りた時間を過ごす。タラララララ…とドラミングを聞かせるのはアオゲラアカゲラか。

 研修室の外の斜面にはリスやカケスがやってきた。


 8時からまた野外観察に出かける。
 今朝は鞘口峠方面へ。
 木工センターの軒下に作られたスズメバチの巣。一度壊されたのをまた修復しているらしい。

 高らかにさえずるミソサザイ。鳴き声が美しい三鳴鳥といえば、ウグイス、コマドリオオルリだが、個人的にはミソサザイこそ最高の歌い手だと思う。野鳥の声マネ達人・浦野さんといえども、ミソサザイの声マネは不可能だ。

 ミソサザイの巣。盛んに餌(虫)を運びこんでいるので、たぶん雛がいるのだろう。

 沢にかかる木橋にはテンの新しいフンがあった。草のタネらしきものが交じっている。

 ミヤマキケマン

 ミヤマハコベ。

 タチツボスミレ

 フモトスミレ。

 シカの足跡。

 こういう穴もクマがアリの巣をほじくった痕なのかも?

 アオバトの羽毛。あたりに散乱していた。恐らく猛禽類にでも襲われた時に抜けたのだろう。掴まれた部分の羽だけ抜けて難を逃れたか?

 ツツドリ。稜線上の木でポポ、ポポ、ポポ、ポポ…と鳴いていた。

 時間の都合で鞘口峠のすぐ下まで行って引き返したが、途中で都民の森の職員2名が登ってきた。この上の山中で急病で倒れた人がいるとのこと。
 ほどなく、野鳥の声に交じって緊急車両のサイレンが遠く聞こえてきた。

 森林館に帰りつくと、消防や警察の車が5台ぐらい来ていて、救急隊員や山岳救助隊員が登山の準備をしていた。あとで聞いたところ、持病のある高齢登山者が体調を崩したそうだが、大事には至らなかったそうだ。よかった、よかった、で済む話でもないような気がするが…。
 10時前に戻って、簡単に観察会のまとめ、アンケートの記入で楽しかったイベントも終了。

 哺乳類 テン、ハクビシン、ヒナコウモリ、ニホンリス
 鳥類(声のみ、僕は見逃したものも含む)
 シジュウカラ、コガラ、ヒガラ、ヤマガラゴジュウカラエナガヒヨドリキセキレイ、ウグイス、センダイムシクイミソサザイオオルリコルリキビタキヤブサメ、マミジロ、アカハラアオゲラアカゲラコゲラアオバト、ヨタカ、ジュウイチ、ツツドリハシブトガラス、カケス、フクロウ、トビ、ノスリクマタカソウシチョウ

 帰りのバスは10時35分発だが、もう少し山歩きがしたくて、また山の中をひとりでぐるっと歩いてきた。




 カツラの木。




 オオルリキビタキの声が聞こえる道。エナガの姿も確認できたし、キクイタダキの声も聞いた。

 イヌブナ。

 先ほど、大勢で来た場所に今度はひとりで。静か。

 カケスがいた。

 1時間半余り歩いて森林館に戻り、13時05分発のバスで帰る。
 都民の森の駐車場に立つ「ゆりーと君」像。スポーツ祭東京2013のマスコットキャラクター。奥多摩周遊道路が自転車ロードレースのコースになったらしい。

 このあたりの広い空は運がよければクマタカが飛ぶそうだが、そんな幸運には恵まれず。
 朝はけっこう寒かったけれど、いつのまにか暑くなってきた。
 帰りのバスは数馬乗り換え。乗り換えのバスの発車を待つ間に電線でウグイスがさえずっていた。電線にとまるウグイスは初めて見た。

 16時過ぎに帰宅。