Acoustic Asturias

 南青山のMANDALAでアコースティック・アストゥーリアスのライヴ。

 近年はロックバンド形式のエレクトリック編成での活動がメインになっているアストゥーリアスだが、今回はヴァイオリン、クラリネット、ピアノ、ギターの室内楽編成のアコアス。
 クラリネット奏者の筒井香織さんが2年間の予定でパリに留学して、そのまま音楽活動の拠点をあちらに移してしまったようで、すでに5年が経過。作曲や演奏だけでなく、教えたりもしているらしい。今回は筒井さんの一時帰国のタイミングに合わせてのライヴ実現で、2012年7月以来、5年ぶりとなる。ところが、リーダーの大山曜さんが手首を痛めてギターが弾けず、今回は代役として西村健さんが出演と予告されていた。ということで、今日のメンバー。

 川越好博(Pf)、筒井香織(Cl,Recorder)、テイセナ(Vln)、西村健(G) 

 17時半開場で18時半開演。客席は満員の盛況。
 実は今日はアコアスとファン層が重なっているアーティストのライブがいくつかあって、恐らくここにいる多くの人がどこへ行こうかと迷ったり、なんで同じ日にやるんだよぉ〜と叫びたくなるような日なのだ。個人的にはステラ・リー・ジョーンズのライヴとかぶったのが悲しい。どちらかが日曜日にしてくれたら最高の週末だったのに。
 というわけで、メンバーも今日はどれぐらいのお客さんが来てくれるのか、心配だったらしいのだが、満員ということで、感謝の言葉を何度も口にしていた。
 さて、開演前に大山氏が拍手に迎えられて登場。古傷の左手首をまた痛めてガットギターの弦を抑えるのがまだ難しいこと、(エレアスの)ベースギターはすでに弾き始めていることなど話したうえで、今日はギターを西村ケンさんにお願いしましたとのこと。また今日演奏する新曲についての解説、自分もアコアスの演奏を客席から観るのは初めてなので楽しみだ、などと語ってステージを下り、続いて川越氏を先頭にメンバー登場。
 1曲目はピアノの幻想的なイントロから始まる「WATARIDORI」。この会場はグランドピアノがあるのが嬉しい。そこにヴァイオリンとクラリネットがまさに大空を舞う渡り鳥のように優雅に歌いだす。

(ヴァイオリンは前任の伊藤恭子さんの時代)
 今日はわりと良い席が取れて、ステージがものすごく近いこともあり、音楽がダイレクトに心に染み込んでくる。感動する。
 西村氏のギターは聴きなれた大山氏の音とはまた微妙に違った感じで、そこがまたよい。クラシックで同じ曲でも演奏者が違えば、音楽も違って聞こえるというのと同じ。個人的にはいつかアストゥーリアスの曲を全く違う演奏者で聴いてみたい、なんてことを考えたりもする。また、彼らの音楽をライヴハウスではなく、コンサートホールで聴いてみたい、なんてことも夢想する。実際、過去には筒井さんが出演するクラシックのコンサートにアコアスで出て、大絶賛を浴びたということもあったのだ。
 2曲目は「Adolescencia」。川越氏とテイさんが視線を交わし、息を合わせて同時に弾きだす。緊張感のある美しさ。力強いピアノとギターがリズムを刻んで曲を下から支え、ヴァイオリンとクラリネットがソロで歌ったり、掛け合ったり、ハーモニーを奏でたり、というのが基本的なスタイルで、もちろんピアノやギターもソロやアンサンブルで聴かせどころがたっぷり。変拍子だらけで、演奏難度は非常に高そうだけれど、聴く側からすれば、難解なことは何もない。もちろん、この手のユニットにありがちな凡庸さとは無縁だ。

 ふだんのアストゥーリアスのライヴでは基本的に大山氏がMCを担当するのだが、今日は川越氏が担当。
「先ほど大山さんが西村ケンと紹介しましたけど、西村タケシさんです」と改めて紹介。
 会場爆笑。大山さん、うっかり間違えたのか、それとも今まで知らなかったのか???
 西村さん、川越氏とは某シンガーソングライターのバックで演奏していた頃からの10年来の知り合いで、同じ北海道出身、しかも小学校も同じで、同じ戌年とのこと。アコアスのギターはテクニックだけでなく、曲全体の構造、構成を一瞬で把握できる能力が必要で、代役には西村氏が適任だと思ったとのこと。曲を完全に理解している作曲者本人(大山氏)が弾くパートを他人が弾く場合、ただ譜面通りに演奏するというだけでは足りない、譜面にならない部分まで理解する能力が求められるということなのだろう。
 こんな調子で書いていくと、いつまでたっても終わらなくなるので、あとは簡単に済ますが、ライヴは休憩をはさんだ2部構成。女性陣は後半は衣装をチェンジして出てきた。
 そして、今日のMCは川越氏とともにテイさんもマイクを握る。テイさんは僕が知る限りステージではまず喋らない人なので、声を聞けるだけでも貴重だ。少なくとも、アストゥーリアスのステージでは過去に一度、告知でちょこっと喋ったぐらいではないか。ただ、ふたりとも喋りは苦手なのか、MC原稿をしっかり準備して、それを見ながら話している。ほかのメンバーが譜面台を見ながら演奏しているのにテイさんはいつも通り今日も譜面台ナシなのだが、MCはそうはいかないようだった。
 そして、誰もが興味のある筒井さんのフランス生活の話も。5年前はまったく話せなかったフランス語も今はペラペラだそうだ。ついでに今日はわざわざフランスからアコアスを聴きに来たファンもいるようだった。彼らの最初のアルバムはフランスのレーベルから全世界発売されたし、過去にフランスでツアーもやっているので、現地にもファンはたくさんいるのだ。実際、彼らの音楽がヨーロッパで受けないはずはない。
 それから来年は日仏国交180年(と筒井さんは言っていたが、160年では?)の記念コンサートが両国でいくつか開催され、筒井さんの作品(といっても現代音楽らしい)も演奏されるそうだ。この分では筒井さんのフランス生活はまだ続きそうなのだが、できれば年に一度ぐらいは帰国してアコアスのライヴをやってほしい。
 とにかく、久々のアコアスなので、聴きたい曲は山ほどあるのだが、本編最後は「Marching Grass on the Hill」だった。誰もが、アノ曲を聴かなければ帰れない、と思うような曲がまだ少なくとも2曲はあるよなぁ、と思っていたら、予想通り、その2曲がアンコールだった。「Distance」と「Ryu-Hyo」。


 もちろん、素晴らしい演奏で、大満足だったけれど、いつまでも聴いていたい、ずっと終わってほしくない、そう思わせるライヴだった。
 今回はトークも多めで、全体で2時間半ぐらいだったかな。
 会場を出て、外苑前の駅へ歩いていくと、やたらに神宮球場帰りのカープファンが目に付いた。スタバの店内など赤一色だった。ホームのスワローズファンが少なかったのは、負けたのでさっさと帰ったからだとあとで分かる。

 この日のライヴのダイジェスト映像。