オランウータン講演会

 本日、多摩動物公園でオランウータンについて研究者や動物園スタッフが様々な角度から語る講演会「Oh! オランウータン 森のヒトのふしぎ」が開催された。事前申込制でホールは満席の大盛況。
 園ではいろいろな講演会やシンポジウムが行われるが、こんなに人が集まったことはあまりないということだった。
 講演は13時半から16時まで。まずは麻布大学獣医学部の大石元治氏が「オランウータンの身体のヒミツ」と題して。ニンゲンよりも遥かに強いオランウータンの腕力や握力の秘密を解剖学的視点に立ち、筋肉量のデータや骨の仕組みなどから解明するという会場にいた子どもたちにはちょっと難しいかな、という話。

 続いて多摩の動物解説員の山崎彩夏さんがボルネオの保護区で野生オランウータンの追跡調査をしていた時の話を中心に「オランウータンの森のくらしのヒミツ」と題して。ボルネオのジャングルは餌となる果実がいつでも手に入るわけではなく、食に関しては意外に厳しい環境であること。そこからオランウータンは他の大型類人猿と違って単独生活をするようになったと考えられること。しかし、近年の研究ではこれまで考えられていたほど完全な単独生活ではなく、ひとり暮らしを基本としつつも、時に一緒に行動して互いに学習しあうなど、ゆるやかな社会生活も存在することがあきらかになってきたそうだ(ある母子オランウータンとまったく血縁関係のない若いメスがしばしば行動を共にし、その個体が後に出産した時、うまく子育てができた、など)。

 次は京都大学理学研究科の田島知之氏による「オランウータンが見せる平和力」という話。ここでもオランウータンの社会性がテーマ。群れで生活をする他の大型類人猿では争いが起きた時にチンパンジーでは負けそうな個体をほかが助けるとか、ゴリラでオス同士の喧嘩や睨み合いが発生した時にメスや子どもが間に入るといった行動が報告されているそうだが、オランウータンではそのような社会的行動はみられないと思われていたそうだ。しかし、ということで紹介されたのが多摩動物公園の事例。
 2007年にインドネシアの動物園から多摩にやってきたキキ(当時7歳)。最初、ジプシー(当時52歳)とその娘チャッピー(当時34歳)一家の群れに入れられた。その時、チャッピーには息子のポピーと赤ん坊のミンピーがいた。で、どうなったかというと、チャッピーがキキを追いかけまわして攻撃しようとしたのだ。そして、その時、ジプシーが両者の間に入り、チャッピーの攻撃からキキを守ったのである。その貴重な映像も見せてもらったが、ジプシーは自分と全く血縁のないキキを守るためにまさに必死で体を張っていた。この行動は学会でも報告されたそうだ。ちなみにそれ以後、チャッピーとキキが一緒に展示されることは現在に至るまでない。また、チャッピーと実姉のジュリーも仲が悪く、一緒に出ることはない(すべての個体と一緒に放飼場に出られるのはチャッピーの娘のミンピーだけである。ミンピーは祖母ジプシーの性質を最もよく受け継いでいると僕は個人的に思っている)。
 ジプシーが亡くなった時、一番寂しそうにしていたのはキキだったが、子どもの頃、自分を守ってくれた記憶がずっとあったからかもしれない。
 今日のキキ。

 今日のバレンタイン。

 最後は多摩の飼育員、清水美香さんが「日本初、代理母の取り組み」ということでズーラシアからやってきたバレンタイン&チェリア母子と代理母ジュリーについて。
 イギリスの動物園で人工哺育で育ち、自分も子育てができないバレンタインは2月14日で32歳になるオバサンだが、今ではキキの息子で5歳のリキと仲良しになり、よく一緒に遊んでいる。リキと一緒にもう一度、子ども時代からオランウータンとしての人生をやり直しているようだ。今年の12月でバレンタインは契約期間終了でズーラシアに帰る予定だそうだが、次の出産ではちゃんと育児ができるだろうか。
 話の終わりに昨年末、NHKの番組でチェリアとジュリーの話が紹介された時の動画の未放送部分も含めた映像が紹介されたが、涙が出るほどおかしくて、かわいかった。
 午前中は小学生向けのワークショップも行われた。