銚子電鉄の旅(2)

 8月18日(土)に千葉県銚子市に出かけた話の続き。銚子電鉄君ヶ浜駅で下車したところから。


 無人駅の君ヶ浜をあとに畑の中の道を海に向かって歩く。今日は涼しくてセミの鳴き声を聞かないな、と思っていたのだが、ここで常緑樹の森からようやくセミの声が聞こえてきた。ミンミンゼミやアブラゼミツクツクボウシ
 道端の草むらではキリギリスが鳴いている。姿を探すが、見つけられない。かわりにバッタが飛ぶ。
 林を抜けると、目の前にパーッと海が広がった。東京湾でも相模湾でもない、正真正銘の太平洋。きれいな浜辺に波が力強く打ち寄せている。


 遊泳禁止なので、人は少ない。

 そして、右手には関東最東端の犬吠埼。白亜の灯台が聳えている。

 岬へ向かって歩く。いろいろな海岸植物が咲いているが、花の名前などはほとんど分からない。
 あとで調べたら、これはハマグルマというらしい。肉厚の葉っぱは表面がザラザラしていて、別名「猫の舌」。

 これは明らかに外来種。ハナヅルソウ。

 岬の下の岩礁地帯。フナムシがいる。


 岬の上へ続く階段を上ると、そこが灯台の前で、急に賑やかな場所に出た。
 灯台の門前に灯台風の郵便ポスト。

 僕は旅に出ると基本的に人工物より自然に心惹かれるのだが、人工的な建造物の中でも水門、火の見櫓とともに灯台は大好きである。

 犬吠埼灯台もこれが3度目だが、今回も200円払って、99段の螺旋階段を登ってみた。

 外に出たら、そこに鳩。足環がついているから只者ではないのだろう。

 気のせいか、そこらの鳩より気品があるような気がするが、気のせいだろう。


 水平線がまるく見える。


 南方に見える灯台らしき塔。気になる。どこまで近づけるか、あとで行ってみよう。

 灯台のレンズ。

 青空にそびえる真っ白な灯台もいいけれど、本来の役目を果たす夜の灯台も見てみたい。夕暮れの灯台も夜明けの灯台も見てみたい。
 素晴らしい動画があった。


星景微速度撮影 タイムラプス#12 犬吠埼灯台と星空 Star Timelapse in Japan#12~Time Lapse of lighthouse / Cape Inubo-saki


星景微速度撮影 タイムラプス#21 犬吠埼灯台と天の川 Star Timelapse in Japan#21~Lighthouse & Milky Way

 犬吠埼灯台の概要。
 白色、円形、煉瓦造。灯質は単閃白光、毎15秒に1閃光。光達距離は19.5海里(約36キロ)。高さは地上から頂部が31.3メートル、水面から灯火までが51.8メートルだから、地盤の高さは標高20メートルほどということになる。初点灯は明治7年11月15日。英国人技師リチャード・ヘンリー・ブラントンの設計によるもので、当時の姿を今にとどめ、「世界の灯台100選」にも選ばれている。もちろん「日本の灯台50選」にも選ばれている。

 灯台本体に展示室があり、灯台やブラントンについてなど、いろいろな展示があるほか、敷地内に資料館もあって、灯台の巨大レンズの実物が展示されていた。しかも、動いていて、灯台の発光のしくみがよく分かるようになっている。灯台の光は海の彼方まで届くが、光源の電球は意外に小さいのだった。


 ちなみにこのレンズは犬吠埼灯台と同じ一等レンズで、国産第一号。世界遺産に選ばれた沖ノ島(福岡県宗像市)の灯台で大正11(1922)年から平成19(2007)年まで使用されていたそうだ。沖ノ島では大きいほうのレンズに赤色フィルターをつけ、25秒隔てて10秒間に白2閃光、さらに25秒を隔てて赤1閃光を放つというサイクルだったという。どうせならそのままの状態で展示してほしかったが、こうして実物のレンズが動く状態で展示されているのは全国でもここだけだそうだ。。
 動画で撮影してみた。レンズの直径は約3メートル。

犬吠埼灯台資料館の灯台レンズ
 また、犬吠埼灯台には平成20(2008)年3月末まで霧信号所があった。
 


 霧信号は海上の視界が不良の際に光ではなく音で灯台の位置を知らせる装置で一般には霧笛と呼ばれる。前回訪れた時はまだ現役だったが、晴天だったので、犬吠埼の霧笛は聴いたことがない。ただ、霧の発生が多い北海道東部の灯台では何度も耳にした。乳白色の霧が立ち込めた岬に響くくぐもった音は耳に残っているが、すべて電磁力によって発音板を振動させて吹鳴するダイヤフラムホーンという方式で、それが日本では主流だった。しかし、犬吠埼では圧縮空気によりサイレンを吹鳴するエアサイレン方式が採用されていた。その霧笛が霧信号所の建物内で今も聞けるようになっていた。録音されたものが、ボタンを押すと再生される仕組みで、元来は30秒を隔てて5秒吹鳴だったが、今は2秒を隔てて5秒吹鳴に変更されている。

犬吠埼灯台の霧笛
 ちなみに技術の進歩で視界不良時でも船舶は航行位置を知ることができるようになったため、日本の灯台の霧信号所はすべて廃止されている。「霧笛」という言葉は過去のものになった。
 霧信号所内に展示された犬吠埼灯台の初代レンズ。フランス製で、明治7(1874)年から昭和26(1951)年まで使われた。その後、明治村に展示され、平成14年に里帰り。


 灯台にはいろいろ見どころがあるのだが、もうひとつ。この鐘。
 尻屋崎灯台の霧鐘。

 青森県下北半島の北東端、尻屋崎で霧の時にこの鐘を打ち鳴らして航行する船舶に岬の存在を知らせていたのだという。日本初の霧信号として英国人技師スチブンソンの設計により川口鋳造所で製作。明治10年に尻屋崎に設置され、スコットランド製の時計仕掛けで1分間に1回打ち鳴らしていたそうだ。明治12年に新しい蒸気式の霧笛に置き換えられた後は北海道の葛登支灯台昭和12年まで使用されたとのこと。
 犬吠埼沖を航行する船舶。

 灯台見学のあとは灯台の周囲の遊歩道を一周。



 カンナ。

 そろそろお昼が近いので、近くの食堂で昼食。磯定食。
 マグロとメカジキの刺身にマツブ貝のつぼ焼き。

 つぶ貝、炎上中!

 その後、犬吠駅へ。

 ここで銚子電鉄起死回生の新商品「まずい棒」を売っているだろう、と思ったら・・・。

 完売・・・。
 まぁ、そんなに食べたいわけでもないが、廃線危機の銚子電鉄にとって少しでも助けになるのなら、と思っていたのだが、売り切れでは仕方がない。これで資金難に苦しむ会社の経営が一息つけたらいいけれど。
 とりあえず一日乗車券についている「ぬれ煎餅1枚サービス券」でぬれ煎餅1枚をもらう(犬吠駅ではあとでぬれ煎餅などお土産をいろいろ買いました)。

 旅はつづく。