霞ヶ浦サイクリング(その1)

  春に筑波山へ行った時、霞ケ浦の湖岸を少しだけ自転車で走り、あまりに気持ちよさそうな道だったので、そのうち霞ケ浦一周サイクリングにチャレンジしてみようと思い、秋の初めからその気になっていたのだが、台風が来たり、雨だったりで、なかなかチャンスに恵まれなかった。しかし、11月2日の土曜日は好天の予報だったので、チャンス到来とばかりに出かけてきた。

 まだ真っ暗な5時過ぎに家を出て、分解・袋詰めした自転車を担いで小田急線に乗り、千代田線、常磐線と乗り継いで、7時半過ぎに茨城県の土浦に着いた。

 駅前で自転車を組み立て、コンビニで買い物をして、走り出す。

f:id:peepooblue:20191103091544j:plain

 駅前から「つくば霞ケ浦りんりんロード」の案内に従って東京方面へ走り、まもなく渡る桜川の橋の袂からサイクリングロードに入る。

 「つくば霞ケ浦りんりんロード」とは、これまでに何度も走っている旧筑波鉄道廃線跡を利用したサイクリングロード(40㎞)に加え、日本で二番目に大きい湖・霞ケ浦を一周するコース(140㎞)の計180キロにも及ぶサイクリングコースの総称で、土浦駅はまさにその玄関口にあたる。しかも、これだけの距離がありながら、全区間が平坦路である。今回は霞ケ浦一周140キロを走破しようと思っている。

www.ringringroad.com

 サイクリングロード(といっても、多くの区間が自動車も通行可なので、たまにクルマが前後からやってくる)に入って、背後にそびえる筑波山を眺め、桜川の河口から湖岸の道を行く。

f:id:peepooblue:20191103094523j:plain

f:id:peepooblue:20191103094544j:plain

(交通量はさほど多くないが、たまに車も通るので要注意)

 まもなく「西浦右岸48.5㎞」の標識があった。「西浦」とは「いわゆる霞ケ浦」のことである。正式名称としての霞ケ浦とは一般に「霞ケ浦」と認識されている西浦のほか、北浦や外浪逆浦、それらを繋ぐ河川も含めた水域全体の総称なのだ。全体の面積は220平方キロメートルで、そのうち最大の西浦は172平方キロである。今日はこの西浦を一周しようと思っている。かつては海だった地域で、西浦の湖面標高はわずか0.2メートルしかない。かつては海水が混じる汽水湖だったが、今は水門で仕切られ、淡水化しているそうだ。

 「西浦右岸」の標識は0.5キロごとにあり、数字は48.5、48.0、47.5・・・と進むにつれて減っていく。この数字がゼロになったところが潮来市にある西浦の出口ということになる。

 すぐに霞ケ浦総合公園がある。前回、休憩した場所で、今日も同じ藤棚の下のベンチで朝食。

f:id:peepooblue:20191103101054j:plain

f:id:peepooblue:20191103101138j:plain

f:id:peepooblue:20191103101253j:plain

 ダイサギ。ほかにコサギがいて、モズも高鳴きしている。

f:id:peepooblue:20191103101321j:plain

f:id:peepooblue:20191103101345j:plain

 この先もずっと湖岸に沿って走るのだと思っていたが、いったん湖岸を離れて、一般道を迂回する区間がけっこうあった。

 土浦市から阿見町に入ると、陸上自衛隊の施設に阻まれて、国道125号線に迂回。それを過ぎると、予科練平和記念館があった。

 この一帯にはかつて日本海軍の航空基地があり、搭乗員を養成する「海軍予科練習生」(予科練)の教育機関昭和14年に横須賀からこの地へ移転してきて、多くの戦闘機パイロットが養成され、特攻隊の要員となった者も含め、戦争で数多くの戦死者を出したのだった。

 人間魚雷「回天一型」実物大模型。この中に1名が乗り込み、敵艦への体当たり攻撃を行った。420基が生産された「回天」搭乗要員の7割以上、約1,000名が予科練の出身者で、そのうち40名が戦死したという。

f:id:peepooblue:20191103112006j:plain

 こんな狭い水路でも湖岸には橋がなく、いったん上流まで行って橋を渡って、また戻ってくる区間もある。

f:id:peepooblue:20191103201339j:plain

 湖岸の道は意外に横風が強く、岸辺には波が打ち寄せ、時には護岸にぶつかった波が飛沫を上げたりする。

 そして、岸辺には釣り人が多い。みんな湖岸の道に車を止めて釣りをしているので、路上駐車の車も点々とある。

 湖と反対側には刈り入れの終わった水田のほか、蓮田が多い。これからがレンコンの収穫シーズンだろう。

f:id:peepooblue:20191103202124j:plain

 ところで、今回、霞ケ浦一周に挑戦するにあたって気になっていたのが、先月12日に関東を直撃し、東日本各地に大水害をもたらした台風19号による影響である。霞ケ浦も増水して、湖岸の道が通行止めになったりはしなかったのだろうか。

 実際に走ってみると、道路が冠水したような形跡は見当たらないが、湖岸に生える木々は今も根元が水に浸かっていたりする。これはいつものことなのか、例外的な現象なのか。

 あとで調べたら、台風による豪雨で霞ケ浦にも周辺河川から大量の水が流入し、かなり増水したようで、あるいは、今でもまだふだんより水位は高いのかもしれない。

 霞ケ浦の水位は利根川との合流点に設置された常陸川水門の操作によって管理されている。霞ケ浦の水位を下げるには水門を開放して、水を利根川へ流せばいいわけだが、台風19号によって利根川も大増水し、利根川の氾濫水が水門を越えて霞ケ浦に逆流してきたそうだ。霞ケ浦はますます増水し、しかも水門も開けられなかったわけだ。ようやく水門が開放できたのは利根川の水位が下がった16日になってからだったという。ただ、利根川は潮の干満の影響を受けるため、満潮時に水門を開けると海水が霞ケ浦に遡上してしまうので、水門を開けるのは水が海に向かって流れる干潮の時間帯に限られるとのこと。 f:id:peepooblue:20191103202203j:plain

 さて。単調なサイクリングではあるけれど、野鳥がいろいろいて、目と耳を楽しませてくれる。ダイサギアオサギコサギ、カワウ、カルガモ、モズ、ハクセキレイセグロセキレイカワラヒワ、トビ、ウグイス(地鳴き)、ヒヨドリムクドリ、スズメ、カラス・・・。ヒバリも上空でさえずっていた。

 今季初めて姿を確認したジョウビタキ♀。

f:id:peepooblue:20191103202929j:plain

  電柱のてっぺんでさえずっていたホオジロ。そばでヘビが轢かれていて、よく見たら、小さなマムシだった。轢いたのは自転車だろうか。 f:id:peepooblue:20191103203107j:plain

 途中にコンビニなどもほとんどないので、休憩するきっかけもなく、ひたすらペダルを踏み続ける。坂はまったくないけれど、風の影響もあって、意外に疲れる。まぁ、のんびり行こう。飛ばしているロードバイクが多いが、あちらはスポーツ、僕のは旅。抜かれても気にすることはない。

 いつのまにか阿見町から美浦村に入った。アミとかミホとか女子の名前みたいだなと思うが、美浦といえば競馬界における関東の拠点・美浦トレーニングセンターがあり、見学施設もあるらしい。寄ってみたい気はするが、そのまま進む。

 稲敷市に入り、入江の奥で、そこに注ぐ小野川に架かる古渡橋を渡る。そばにセブンイレブンがあり、サイクリストが休憩しているのが見えたが、ノンストップで通過。時刻は9時45分。

 橋の下にはオオバンやカワウがいた。

 このあたりは出入りの多い湖岸線だが、湖岸に忠実に進む。

 先ほど走った道が対岸に見える。その向こうに筑波山

f:id:peepooblue:20191103205247j:plain

f:id:peepooblue:20191103205643j:plain


霞ケ浦サイクリング

 10時。「西浦右岸18.5㎞」地点。ということは、もう30キロ走ってきたことになるが、迂回区間も多いので、実際にはそれ以上に走っている。気分的にも、けっこうな道のりだったな、と思う。

f:id:peepooblue:20191103210456j:plain

f:id:peepooblue:20191104133659j:plain

 銀色に輝くススキ野原。エンマコオロギが鳴いている。 

f:id:peepooblue:20191103210654j:plain

 10時半。「妙岐の鼻」と呼ばれる湿原を見渡す展望地で休憩。

f:id:peepooblue:20191103211406j:plain

 ここはオオセッカやコジュリンの繁殖地として知られるほか、チュウヒやハイイロチュウヒ、ミサゴなどの猛禽も生息する貴重な自然が残り、バードウォッチャーの間では有名な場所である。何か猛禽でも飛んでいないかと見渡したが、鳥の姿は確認できず。

f:id:peepooblue:20191103211826j:plain

 散策路も整備され、湿原の中に野鳥観察小屋もあるが、今回はパス。

 稲敷大橋から見た妙岐の鼻。

f:id:peepooblue:20191103212710j:plain

 妙岐の鼻をあとに新利根川(江戸時代に開削された人工河川)に架かる稲敷大橋を渡ると、その先は堤防工事中で、湖岸から離れ、一般道を走る。少しルートを外れて、道がわからなくなったが、まもなく霞ケ浦の湖岸に復帰し、やがて「西浦右岸0.5㎞」の標識。いよいよ霞ケ浦の末端までやってきた。それから500メートルほど行くと、「西浦右岸0㎞」ではなく、「北利根川9.0㎞」の標識が現れた。北利根川とは常陸利根川ともいい、霞ケ浦(西浦)から外浪逆浦(そとなさかうら)を経て利根川に通じる水路である。そして、ここはもう潮来市なのだった。

f:id:peepooblue:20191103214545j:plain

 ここで北利根橋を渡り、今度は西浦左岸を奥地へ向かうのが当面のルートであるが、北利根橋の向こうに何やら水門が見えるので、行ってみた。

 そこにあったのは新横利根閘門。利根川本流と北利根川を結ぶ横利根川が北利根川に接続する地点に設けられた閘門である。閘門とは水位の異なる二つの河川の間で船の通行を可能にするため、二つの水門で仕切り、その間の区間(閘室)の水位を上げ下げすることで、両河川の水位差を維持したまま船を行き来させる、いわば船のエレベーターである。

 ちょうど船が台船を押して北利根川から横利根川へ進入するところだった。

f:id:peepooblue:20191103220748j:plain

 横利根川利根川の接続部には大正10年に完成したレンガ造りの横利根閘門があり、国の重要文化財にも指定されている。見てみたいのだが、ルートから大きく外れてしまうので、今回は断念。

 いつのまにか水門が閉じていた。水門の向こう側の水位が低く見えるが・・・。

f:id:peepooblue:20191103221300j:plain

 二つの水門からなる新横利根閘門。

f:id:peepooblue:20191103221340j:plain

 横利根川~北利根川というのは利根川の旧流路にあたるそうで、茨城県と千葉県の県境にもなっている。川の向こうは千葉県香取市

 北利根川に架かる北利根橋。

f:id:peepooblue:20191103222134j:plain

 ここまで来たら、あと数キロ走って潮来の街まで行ってみようか、とも思ったが、やめて、北利根橋を渡り、今度は霞ケ浦(西浦)の左岸を北上していくことにする。時刻は11時半。17時までには霞ケ浦を一周して土浦に戻りたいが、どうなるだろう?

 

(つづく)