秋の奥多摩・山歩き(その2)

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 標高310メートルの青梅線鳩ノ巣駅から鳩ノ巣渓谷を散策し、1時間半余りかけて標高343メートルの奥多摩駅までやってきた。ここからは青梅街道旧道、奥多摩むかし道を奥多摩湖まで歩く。この区間の青梅街道は自転車で何度も走ったことがあり、6キロほどだったと記憶しているが、交通量が多く、幅の狭いトンネルが続くので、息の抜けない区間だった。途中でサルが出没したことがあるので、今日も何か動物が出てこないかと期待はしている。ただクマは勘弁してほしいし、イノシシも嫌だな。

 9時55分ぐらいに奥多摩駅をスタートし、青梅街道に出て、奥多摩湖方面へ歩きだす。上空をトビが旋回している。

 すぐに日原川の深い谷を渡る。数年前に日原鍾乳洞へ行き、奥多摩駅まで歩いて戻ったことがある。その時はずっとこの峡谷に沿って歩いたのだった。

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 さらに少し歩くと、奥多摩むかし道の案内標識があり、ここを右折し、35メートル先を左折すると、そこからむかし道だ。ここから奥多摩湖まで9.1キロだそうだ。

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 歩き始めてすぐにジョウビタキが鳴いていたが、姿を見つける前にどこかへ飛んでしまった。アオジらしい声も聞こえた。ほかにエナガヤマガラなど。

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 熊出没注意! 今年の6月4日にこの辺で出たらしい。午前10時45分頃というから、今ぐらいの時間帯だ。まぁ、僕以外にも前後に歩いている人たちがいるので、大丈夫かな、とは思うが、油断はできない。

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 まもなく線路跡と交差する。1957年に完成した小河内ダムの建設資材を輸送するために利用された鉄道の廃線跡である。奥多摩駅方面を見やると、トンネルが口を開けているが、レールはすでにはずされている。

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 しかし、奥多摩湖方面にはレールが残っている。しばらく線路に沿って歩く。

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 急峻な崖っぷちを行く鉄道で、観光用にトロッコ列車を走らせたらかなりの人気になりそうだと思うが、すでに朽ちかけている区間もあり、再生は困難そうだ。トンネルや鉄橋が連続する路線であることを考えれば、莫大な費用をかけて建設されたのだろうし、ダム工事が終われば用済みというのは、いかにももったいない。奥多摩観光鉄道として利用すればよかったのに、と今更ながら残念に思う。旅客輸送をするには安全面で不十分だったのだろうか。あとで知ったことだが、列車が橋から転落する事故は実際にあったらしい。

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 線路は深い谷を橋梁で一気に渡っているが、むかし道は谷が狭まる奥地まで遡って短い橋を渡って戻ってくる。そのため、道が曲がりくねっている。現代の青梅街道も谷は長い橋で渡り、山はトンネルでぶち抜いて、まっすぐに進む。そのため距離が短いのだ。

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 しばらくは未舗装の山道だったが、そのうち1車線の舗装路に出た。旧街道らしく、石仏が多い。

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 石仏は新旧いろいろ。信仰が今も受け継がれているということか。

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 沿道には人家もあり、道路から斜面の上の住宅に通じる自家用モノレールが設置されていたりもする。

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 案内地図によれば、所要時間がおよそ4時間の道のりなので、途中には意外に立派な公衆トイレが整備されている。ただ、商店はもちろん自動販売機もないので、食料や飲み物は事前に用意しておく必要がある。僕は今日は自家製梅干しのおにぎりを持参している。でも、飲み物の調達を忘れたまま歩き始めてしまったので、ちょっとまずいな、と思いながら歩いているのである。

 最初の公衆トイレのそばにサイカチの木があり、この付近は昔、街道を行き交う人々の休息の場となったそうだ。サイカチの木にちなんで「さいかちぎ」という地名があり、槐木という漢字が当てられている。ちなみに6月にクマが出没したのも槐木だ。

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 サイカチの木の向かい側には念仏供養塔や馬頭観音などがある。

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 槐木をあとにさらに行く。ちなみに奥多摩駅からまだ30分ほどしか歩いていない。

 先ほどは眼下に見た線路跡がいつのまにか道よりも高い所を通っている。

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 それにしても、この付近はとても歩きやすく、気持ちのよい道だ。紅葉の秋もいいけれど、新緑の頃は夏鳥も賑やかだろうし、いいだろうなぁ、と思う。オオルリキビタキミソサザイなどの声など聞きながら歩く場面を想像してしまう。

 ところで、この道は車も通るらしく、時々行き違い用の待避所が設けられている。一度だけ車に抜かれたが、全区間歩いて、その一台きりだった。

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 まもなく桧村という集落に入る。

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 なぜか鎌倉の大仏(?)のミニチュア。

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 ところどころ色づいた木々にたびたび目を奪われる。来週末にはさらに色づいていることだろう。

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 眼下に現在の青梅街道(国道411号線)が見える。あの道を車で一気に走り抜けてしまうのはあまりにもつまらない。僕も自転車で何度も通ったが、サルを見かけたこと以外はあまり面白い区間だとは思わなかった。やはり山は歩くのが一番だ。

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 急斜面に広がる桧村の集落。地元の人とも顔を合わすたびに挨拶する。ちょうど郵便配達のバイクが各家を回っていた。

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 陽あたりのよい桧村集落をあとにまた支流の谷に入り込む。遠くに廃線鉄橋が見える。

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 このあたりから自転車で走る人をたびたび見かけるようになった。どうやらレンタサイクルらしい。奥多摩駅付近で借りて、奥多摩湖まで往復するのだろうか。チェーンが外れて立ち往生している人もいた。

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 多摩川支流の沢の奥に「不動の上滝」というのがあり、ここにまた公衆トイレがあって休憩スポットになっている。時刻は10時50分。すでにずいぶん歩いた気がするが、奥多摩駅からまだ1時間も経っていないのだった。

 不動の上滝。全体が見えないが、細々と水が落ちる、ささやかな滝だ。

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 そこに流れている沢は小中沢というらしく、短い橋(小中沢橋)で対岸に渡り、再び多摩川本流沿いに戻る。

 よい気分でずんずん歩いていくと、再び集落に入る。山の上の小さな集落。でも、ここで暮らしている人も東京都民なのだ。

 集落の上に先ほど遠望した鉄橋が架かっている。昔はあそこを蒸気機関車が牽く貨物列車が走っていたのだ。

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 ここで「境の清泉」という案内標識に心惹かれて、コースをいったんはずれて坂を下ると、湧水の流れるワサビ田があり、そこに水神が祀られ、ホースの付いた蛇口が二つあって、水が出ていた。飲用水と書いてあり、飲む場合は煮沸して云々というような注意書きもないので、飲んでみた。クセのない味で、まさに水そのものの味という感じ。水というのは美味しいものだな、と改めて思った。

 境の清泉。奥多摩町自然文化百選に選定されている。

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 ワサビ田。

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 境の集落まで奥多摩駅から3.7キロ。奥多摩湖まであと6.4キロ。まだ半分も来ていないのだ。

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 というわけで、さらにつづく。