世田谷区岡本は武蔵野台地を開析する仙川が西側を流れ、南の国分寺崖線下を丸子川(六郷用水)が流れ、町の真ん中を谷戸川が貫流する起伏に富んだ地形で、昔は坂が多くて苦労するから岡本には娘を嫁にやるな、と言われたと伝えられるほどの激坂地帯である。そして、湧水の豊富な地域でもある。
下の地図でも岡本の険しい地形がわかる。
そのなかで、湧水のある私有地を世田谷区が買い取り、公園として整備したのが「岡本わきみず緑地」。
谷戸川の右岸側の台地斜面下からの湧水を貯めた池と湿地、流れ、斜面林からなる緑地で、通常、立ち入りはできず、坂上の眺望デッキ、坂下の観察デッキから眺めることになる。
水質良好な水が毎秒3~4リットル湧き出ているといい、水温は年間を通じて16~18℃とのこと。区内では有数の湧出量だそうだ。
武蔵野台地は東京の基盤をなす不透水層の上総層群の上に多摩川が運んできた礫が堆積した武蔵野礫層が重なり、その上に箱根火山や富士山の火山灰や軽石などの噴出物が大量に降り積もって関東ローム層(立川ローム、武蔵野ローム)を形成し、その上を黒土の表土が覆っている。台地に降った水はローム層を透過して武蔵野礫層の中に地下水脈をつくるが、河川が台地を侵食していくことで、礫層が露出すると、そこから水が湧き出すわけだ。このような湧水のある窪地をこの地方では「ハケ」と呼んでいる。
緑地内にはサワガニ、ヒバカリ(へび)、オニヤンマ、シマアメンボなどが生息するほか、アオゲラやカワセミなどの野鳥が飛来し、またキツネノカミソリやミゾホオズキなどの貴重な植物が見られるという。
まだ水辺は殺風景だが、時間が経てば、より緑豊かな水辺空間に変わっていくのだろう。
この湧水は排水管を通じて、そばを流れる谷戸川に注いでいる。川の水はそれなりにきれいだが、両岸をコンクリートで固められた味気ない姿である。
(きょうの1曲)John Greaves with Caroline Loeb / L'Aise Aux Ex-Sans-Trique