高尾山の地質観察~6号路

 1週間前のことだが、11月23日、勤労感謝の日にまた高尾山に行ってきた。ちょうど1か月前にも登ったが、最近、地質や地層、岩石、プレートの動きなど地学関係の本をいろいろと読んでいて、今回はそうした興味から高尾山を歩いてきた。

 紅葉シーズン真っ盛りの祝日ということで、高尾山口駅は大変な混雑。その人の波がケーブルカーの駅まで続き、ケーブルカー乗り場には大行列ができている。もちろん、僕はそんなものには乗らない。今回歩くのは6号路である。沢沿いの道で、あちこちに岩が露出しているのは前から知ってはいるが、それを改めてじっくり観察しながら歩くつもりである。

 ケーブルカーの清滝駅の脇からしばらくは舗装路を行く。もう大混雑ということはないが、やはり歩いている人はそれなりに多い。

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 高尾病院の手前から登山道に入る。途端に道に地層が露出した部分が多くなる。

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 岩には一定の方向に亀裂が走っている。粘板岩だろう。

 高尾山の基盤となる地層は小仏層群と呼ばれ、より広範囲の名称でいえば四万十帯という関東から東海、紀伊半島、四国、九州、沖縄へと続く日本列島の太平洋側の付加体に属する。日本列島はかつてはユーラシア大陸の一部であったが、当時から大陸プレートの下に海洋プレートが沈み込んでおり、プレートが沈み込む海溝には陸側から流れ込んだ土砂や海洋プレート上の堆積物が潜り込めずに溜り、これが陸側に押し付けられて陸化する。これが付加体である。エスカレーターのステップ上のゴミが終端部で床下に潜り込めずに溜まっていくのをイメージすればよいかもしれない。日本列島の大部分はこうした付加体によってできているのだ。これらの付加体のうち、最も外側に位置するのが四万十帯で、その形成時期はおよそ1億年~7千万年前の中生代白亜紀である。恐竜が生息していた時代で、もちろん、当時は日本列島は存在せず、ユーラシア大陸の東縁部だった。

 小仏層群は主として砂岩と泥岩が交互に積み重なった地層である。大陸近海の大陸棚や大陸斜面に堆積した土砂がプレートの沈み込みによる大地震などで海底地すべりを起こしては海溝へと流れ込み、深い海の底に堆積する。この時、土砂のうち粒の大きな砂が先に沈み、粒子の細かい泥ほどゆっくりと沈殿するため、砂の層の上に泥の層が重なるように地層が形成される。それが繰り返されることで、砂、泥、砂、泥、砂、泥と交互に積み重なり、長い年月の間に砂岩と泥岩の互層ができたわけだ。この段階では地層は水平に堆積していた。しかし、これがプレートと一緒に沈み込むことができずにプレートから剝ぎ取られて大陸に付加する際に垂直に近いぐらいに立ち上がったわけである。

 その後、今から3000万年ほど前に大陸の東縁部で激しい噴火活動が生じて大地が裂け始め、その割れ目に海が入り込んで日本海が形成されるとともに大陸から引き裂かれた日本列島が誕生する。それが大体1500万年前のことだという。

 その頃、フィリピン海プレートに乗って南の海から北上してきた火山島が列島に衝突し始める。小仏層群の南側には丹沢地塊が500万年ほど前に衝突してきた。小仏層群の下に潜り込もうとするフィリピン海プレートとそこから剥ぎ取られてぶつかってくる丹沢地塊。その凄まじい圧力と摩擦によって小仏層群は隆起して山地を形成すると同時に地層が破壊され、多くの断層や褶曲が生じたほか、岩石は薄く剥がれるように割れたり、ブロック状に割れたりしたのである。

 丹沢のあとからは伊豆半島も衝突してきて、丹沢を隆起させて丹沢山地が誕生し、玉突き衝突で、小仏層群もより一層圧迫され、さらに隆起したと思われる。高尾山はこうして出来上がったのである。

 伊豆半島は今も本州を押し続けているし、今後は伊豆大島などの伊豆諸島が続々と衝突してくる予定である。まぁ、衝突といっても、その速度は年間にせいぜい数センチらしいけれど。プレートの移動速度はしばしば爪の伸びる速さにたとえられる。

f:id:peepooblue:20211128210804j:plain(岩石がこのように細かく割れているのは丹沢のクラッシュによるものだろう)

 いくつも断層が走り、渓流には小さな滝ができている。

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 岩屋大師。

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 水行場となっている琵琶滝。この滝も断層で生まれた滝のようだ。岩は砂岩らしい。

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 これは○○岩というようにすぐに見分けられたら、楽しいだろうと思う。

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 岩石も面白いけど、紅葉もきれい。

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 人の列が途切れた隙に撮影。

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 前日の雨で濡れた道には岩だけでなく、木の根も張り出している。表土が薄いということだろうか。

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 薄く剥がれたような粘板岩らしき石がゴロゴロしている。

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 粘板岩(Slate)の解説。

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 「昔むかし、高尾山は海の底でした。砂や泥のたまった海底が大きく盛り上がって現在の高尾山となったのです。粘板岩とは自然の力で砂や泥が固められてできたものです。

 黒色粘板岩は、とてもかたくて磨くと表面がツルツルになるので、硯石ともよばれ、硯や碁石に利用されます」

 

 硯岩。苔むして、あまり硯っぽくない。

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 なるべく人が写らないように写真を撮っているが、実際はけっこう人が多い。英語や中国語も聞こえる。また上空を旋回するヘリコプターも騒がしい。テレビ局か新聞社か、紅葉の高尾山とそこに群がる人々を上空から撮影しようというのだろう。

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 水の流れの左右で岩の色が違う。砂岩と粘板岩だろうか。

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 ブロック状に割れた砂岩。

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 6号路には途中、沢と化した道を飛び石伝いに登る区間もある。こうした水などの力によって山は絶えず侵食も受けている。前を歩いているのは中国人のグループ。

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 頭上でエナガの群れが賑やか。崖の前でじっと岩に見入っていたり、立ち止まって樹上を見上げていたり、追い越していく人たちからは変な人だと思われていることだろう。

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 長い木の階段を経て山頂近くで見つけたモミジの赤ちゃん。

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 やがて高尾山のケーブルカー駅から通じる1号路と合流。ものすごい人の数。新宿や渋谷と変わらない。もちろん、自分もその一員なので、文句は言えない。

 いろいろ見ながら、ゆっくり歩いて、1時間半弱で標高599メートルの山頂に着いた。山頂の茶店にも大行列ができている。一体、どれだけの時間並ぶのだろうか。

 高尾山頂の二等三角点。

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 とりあえず展望台へ。上空は晴れているが、今日は富士山は雲に隠れて見えなかった。

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 はるか南の亜熱帯の海からやってきた丹沢の山々。

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 丹沢が衝突してきた時、関東山地丹沢山地の間がプレート境界であり、そこには深さ2,000メートル以上の海が存在したという。高尾山のすぐ南側が海だったのだ。この海は両側から流れ込んだ土砂によって埋め立てられ、陸地化している。

 さて、あまりの混雑で座って休むような場所もないので、高尾山をあとに小仏層群の名前の由来となった小仏峠方面へ向かう。