平岩英子さんのこと

 平岩英子というシンガーソングライターをどのような経緯で知ったのかはもう思い出せないが、「Airium」というアルバムが出た後のことだから、それはたぶん1997年のことだったと思う。だとすればもう四半世紀も前のことになる。

  それから数年の間に何度も彼女のライヴに足を運び、当時、僕が最も多くライヴを観たアーティストが平岩さんだった。確か15回ぐらいは観ている。北海道旅行の出発日が彼女のライヴと重なってしまい、出発の予定を1日延期したということもあった。その日のライヴは映像作品化され、客席にいる自分の姿が映っていたりもする。

 過去にこんな記事も書いている。

peepooblue.hatenablog.com

 少しハスキーながら、しっとりとした声で歌われる独特のセンスを感じさせる詞の世界と格調高い楽曲、演奏。そして曲間のちょっととぼけた感じの天然トーク。彼女のライヴは基本的にピアノの弾き語りだったが、さまざまなミュージシャンをゲストに迎え、同じ曲であってもライヴごとに楽器編成もアレンジも演奏スタイルも変わって、毎回毎回が新鮮な体験だった。

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  ライヴがある時にはお知らせのハガキが届いた。会場で配られたgrisgrasもファンの人たちには懐かしいはず。

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 上で触れたレコーディングされたライヴではある曲の間奏で彼女がピアノでミスをして演奏中断、「もう1回やっていい?」と最初からやり直したが、再び同じ場所でミス。3回目でようやく最後まで完奏した。そして、その直後に演奏の録音をその場で再生し、その上にハーモニーを重ねるなんてこともやっていた。この部分、作品でどんな風に使われるのだろうと思っていたが、実際に発売されたビデオを観て、こう来たかぁ、とミスすらも美味しい料理に仕上げてしまうプロの仕事に感銘を受けたものだった。下の動画の50分あたりから。


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 とにかく、僕は平岩英子さんの音楽が好きで、ライヴがあれば出かけ、アルバムやシングルはすべて揃え、彼女のホームページの掲示板に何度か書き込みをしたりもしたものだった。


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 ところが、彼女のライヴを観たのは2004年5月5日が最後となり、その後、音楽活動は事実上お休み状態となってしまう。ホームページの更新も止まり、どうしてしまったのだろうと思っていたら、2005年のクリスマスイヴに突然、ホームページが更新され、音楽活動の休止が正式に発表されたのだった。ホームページも閉鎖になるということだったので、最後のメッセージは消えてしまう前に一応プリントしておいた。

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 「再見」の言葉を信じて、音楽活動再開のニュースを待っていたが、そのような日が来ることはなく今日に至る。

 ということなのだが、なんで今ごろ、平岩英子さんのことを取り上げたのかというと、彼女が亡くなっていたことをつい最近知ったからだった。久しぶりにインターネットで検索したら、平岩英子という名前の後に関連ワードとして死去だの死因だのが出てきて、悪い冗談としか思えなかったが、それは事実らしかった。彼女のダンナ様がSNSで報告して、ファンの間に伝わったらしい。もう1年以上前、2021年3月31日のことだという。彼女は1971年2月17日生まれだから50歳になったばかりだった。音楽活動は中断したままだとしても、きっと家族や友人に囲まれ、音楽に囲まれ、それなりに幸せな日々を送っているのだろう、と信じていたから、あまりのことに言葉を失ってしまった。

 なぜか彼女の誕生日というのは記憶に残っていて、毎年のようにその日が来ると思い出して「平岩さん、元気かなぁ」などと考えていた。今年も「英子さんももう51か。もう一度彼女の歌声を聴きたいなぁ」などと思ったものだ。でも、彼女の時間は1年前に止まっていたのだった。

 今でも信じられない気持ちの方が強いのだが、彼女の短すぎる人生が、彼女にとってよい人生であったと思えるものであったことを祈るばかりだ。

 決して多くの人に知られたアーティストではなかったかもしれないが、彼女が残した楽曲はこれからもずっと生き続けるし、これからも多くの人が彼女の作品に出会ってほしいと願っている。ご冥福をお祈りします。

 

 これはある夏の終わりに彼女から届いたポストカード。「New Albumのレコーディングも佳境に入り興奮気味の毎日です」と書いてあるから2000年の夏だろうか。

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 今夜は静かに彼女の「BLUE」でも聴こう。タイトル通りに青く青く透き通るような曲。

 

  あぁ本当のサヨナラって 
  ねぇ嘘みたいにおかしくて
  遠い星を見てるように悲しくて
  明日又会えるみたいでせつなくて

  Blue 今もずっとずっと忘れられなくて

 

 この曲をこんな気持ちで聴く日が来るなんて想像もしなかった。

 

(追記)

 このブログを書いた同じ日にかつて平岩さんと同じ事務所に所属していたシンガーソングライター天野月(旧名・天野月子)さんが平岩さんについて書いていた。この日、平岩さんのご自宅へ弔問に行ってきたということで・・・。亡くなられたのはご病気が原因だったとのこと。身近で接していた方ならではの思い出話や英子さんの印象が書かれていて、こうした文章に接すると、改めて残念でならないという気持ちになる。

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