房総半島一周の旅(2)

 昨日、本州の南海上で発生した台風8号が東海・関東地方に接近し、今日の東京は雨がザーッと降ったり、また止んだりといった天気。中心気圧は1,000hPaほどなので、大きくも強くもない台風だと思うが、今夜は関東を直撃しそうな気配。警戒を要する夜となりそうだ。と思っていたら、夜にはすっかり外は静かになり、風雨が強まることもなく、いつのまにか台風は過ぎていった。

 さて、一昨日(8月11日)の房総半島一周の話のつづき。

 鴨川市にある内房線江見駅で下車し、歩き出したところから。

 電線でイソヒヨドリがさえずる駅前の道を海に向かって歩くと、国道に出て、ヒマワリの花壇の向こうに太平洋が広がった。この国道は1995年夏の自転車旅行の際に走った道で、房総丘陵の難所も過ぎて、このあたりまでくると穏やかな砂浜海岸が続いていた印象があったが、記憶よりは岩礁が多く、ゴツゴツした岩がそそり立ったりもしている。

 とにかく、和田浦まで5キロ弱の道を海を眺めながら行こうと思ったら、海に注ぐ洲貝川に阻まれ、いったん国道へ出て、橋を渡る。

(海に面して立つ地蔵堂

 

 ところで、ここまで列車で来る途中で気がついたのは、沿線のあちこちで雑草化したアサガオが青紫色の花をたくさん咲かせているということだった。夏の車窓といえば、クズがいろいろなものに絡みついて盛大に葉を茂らせているという印象が強いが、それと同じようにアサガオが野放図に繁茂しているのだった。

 洲貝川の橋の袂にもアサガオが咲いていた。

 橋を渡って、再び海岸に出る。あとはずっと海沿いに行けそうだ。草むらでキリギリスが鳴き、またミンミンゼミやアブラゼミニイニイゼミの声も聞こえてくる。

 海水浴やサーフィンを楽しむ人たちを眺めながら、しばらくは堤防上の道を歩いていたが、途中から砂浜に下りる。スニーカーで来てしまったが、サンダルにすればよかった。それでも、ちょうど干潮のタイミングだったようで、潮が引いた砂の上は固く締まって、歩きやすい。

 波打ち際を走るチドリらしき姿も見られた。この先の海岸には和田町(現・南房総市)に住んだ鹿島鳴秋が作詞した抒情歌「浜千鳥」の歌碑があるという。

 歩きやすい浜辺とはいえ、太平洋なので、力強い波が押し寄せ、岩にぶつかっては飛沫を上げ、湧き立つ雲もちょっと不穏な気配を漂わせている。

 不思議な形の岩を眺めながら浜辺を歩いていると、岩礁クロサギがいた。しかし、こちらの気配を感じたか、すぐに飛んでしまった。

 点在する岩は白っぽいものや黒っぽいものなどいろいろで、地質の専門家と一緒に歩いたら、きっと興味深い話が聞けるのだろう。

 江見から和田浦まで鉄道で4.6キロ。1時間もあれば歩けるだろうと思っていたが、花や鳥や岩などに目を向け、カメラを向けながら気ままに歩いていると、つい時間のことを忘れてしまう。列車に乗り遅れると、その次はさらに1時間後である。

 岩礁地帯では岩に何やら金具を当てて、ハンマーでたたいている地元の人が何人もいる。何をしているのかと見てみると、岩ガキを採っているらしかった。

 その近くではまたクロサギが餌を漁っていた。先ほどのと同じ個体だろう。

 飛んだ。

 また雨が降り出した。しかも、どんどん強まってくる。泳いでいた人たちも海から上がって、テントに逃げ込んでいる。泳いでいるのなら、雨に打たれても平気なのではないか、と思うのだが・・・。

 こちらは濡れたくないので、折り畳み傘を出す。今日の雨は予期していなかったが、傘は常にリュックの底に入っているのだ。

 また、行く手を川に阻まれた。サンダルならバシャバシャと渡ってしまうが、仕方なく、浜辺をいったん離れて、また国道に出る。すでに鴨川市から南房総市和田町に入っているはずで、探していた「浜千鳥」の歌碑は知らぬ間に通り過ぎてしまったようだった。べつにそれを見たからといって、どうということもないし、まぁ、いいか。

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 電線で風に吹かれながらホオジロがさえずっていた。

 行く手を阻んだ長者川を橋で渡る頃には雨は弱まり、まもなく止んだ。基本的には晴れた空を雨雲の列が次々と通るといった天気のようだ。

 どこからか踏切の警報音が聞こえてきた。和田浦11時14分発に乗り遅れたようだ。まぁ、仕方がない。ということで、再び海岸に出る。

 夏草に覆われた砂丘の道を抜けると、肉厚の葉を持ち、薄い赤紫色の花を咲かせる海浜植物が小さな群落を作っていた。何枚か写真を撮って、あとで調べてみると、ハマゴウというシソ科の植物らしかった。

  和田浦に近づくと、海水浴客が多くなってきた。27年前の自転車旅行では初日に泊ったのが御宿、そして、2日目がたまたま見つけた和田浦の民宿であった。海のすぐ近くの宿で、夕涼みがてら浜辺を散歩していたら、死んだウミガメが海岸に打ち上げられていたのを思い出す(下写真)。

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 当時の記憶よりは岩礁の多い海岸を抜け、和田浦の集落に入ると、前回泊まった民宿は変わらずにあった。和田浦は今でも沿岸捕鯨が行われている町でもあって、夕食に鯨の竜田揚げが出たのを覚えている。あれ以来、たぶん鯨は食べていない。

 内房線の線路があるのは見えるが、駅の場所が分からず、ぶらぶらと歩いていたら、漁港に出た。ここが鯨も水揚げされる港で、全国で4か所あるうち関東では唯一の沿岸小型捕鯨基地なのである。ちなみに和田町以外の捕鯨基地は有名な和歌山県太地町のほか、宮城県鮎川、北海道の網走だそうだ。

 和田で水揚げされるのは体長10メートルほどのツチクジラがメインだそうで、毎年夏季に26頭の捕獲が認められているという。ツチクジラは頭の先端が嘴のように突き出た、イルカを大型にしたようなクジラで、漁港のトイレの外壁に描かれているのが、それだろう。ただ、前回、和田浦に泊った時は朝、港でミンククジラの販売があるという放送が集落に流れていたのを覚えている。僕は始まる前に出発してしまったが、解体の様子も見学できるらしい。

 漁港前に小さな食堂がひっそりとあり、そろそろ昼も近いので、入ってみた。検温と手指の消毒をして、座敷に上がると、4人連れが食事中。店のおばちゃんによれば、鯵の刺身とくじらカツ定食がおすすめだという。1,900円もするが、それを注文。味噌汁はエビやカニで出汁をとっているそうで、アレルギーは大丈夫かと聞かれた。

 クジラは小学校の給食の定番メニューでもあったが、種類が違うせいか、記憶にあるクジラ独特のクセはあまり感じなかった。僕はあのクセのある味も嫌いではないが、ツチクジラのカツも美味しかった。もちろん、新鮮な鯵の刺身も美味しかった。

 店の人と常連らしい客が「台風が千葉県を直撃するのではないか」などと話している。この時は僕は台風の発生を知らなかったので、いつの間にそんなことになっているのか、と思ったことだった。房総の人にとっては数年前の台風の大災害が記憶に新しいだろうし、台風が近づいてくるのは心配だろう。

 

 とにかく、11時14分の電車に乗り遅れ、12時18分の電車に乗るつもりだったが、クジラを味わうという予定外の流れで、それも間に合うか微妙になってきた。その次の電車は13時18分発である。

 

 つづく