房総半島一周の旅(3)

 8月11日に房総半島を旅してきた話の続き。

 南房総市の太平洋岸、和田浦漁港近くの食堂で昼食にくじらカツを食べたところから。

(関東で唯一の沿岸捕鯨基地の和田漁港)

 和田浦駅に急げば、12時18分発に乗れそうだったが、海岸や集落を散策していたら、乗り遅れた。次の列車は13時18分発である。

和田浦の海水浴場)

 雲の多い天気のせいで、光線の加減により海の色が夏色に輝いたり、暗く沈んだり、めまぐるしく変化する。

 和田浦駅は国道に面しているのかと思いきや、国道から線路を挟んだ反対側の道に面して駅があった。こちらが旧道なのだろう。大きな待合室のある新しい駅舎だが、無人駅である。 

 駅前にツチクジラのオブジェ。

 ホームにはツチクジラの頭骨。

 駅前に咲く百合。タカサゴユリか。

 待合室に飾られたサイン色紙。宮崎美子は分かるが、西武ライオンズの背番号22は誰だろう? 初代22番は田淵幸一だったし、和田一浩も22をつけていた時期があったはずだが・・・。

 跨線橋からの眺め。

 13時08分発の上総一ノ宮行きがやってきた。2人降りて、1人乗る。向こうに夏の青い海を入れて撮影するつもりだったが、また海の色が輝きを失ってしまった。

 駅裏の建物は道の駅らしく、敷地内にもクジラの全身骨格。シロナガスクジラ骨格標本のレプリカ(強化プラスチック製)で、全長26メートルもあるそうだ。ただし、和田浦で水揚げされたものではなく、本物は19世紀末にノルウェー北部で捕獲されたものだという。反捕鯨の国際世論に背を向けて捕鯨を続ける国同士の友好の証か。

 和田がクジラの町であることはよく分かる。公園どうぶつ探索者として、こちらも心を惹かれる

 さて、13時18分発の木更津行きに乗り、当初の予定より2時間遅れで和田浦をあとにする。

 発車するとまもなく窓に水滴がつき始めた。また雨である。

 千倉駅に着いた。まだ雨は降り続いている。

 千倉はかつては内房線の特急さざなみ号の終着駅だったが、今はもうここまで来る特急はなく、千倉は普通列車しか停まらない駅となっている。今回、ものすごく久しぶりで時刻表を購入して、内房線のページをめくるまで知らなかったのだが、内房線の特急「さざなみ」は現在は千倉どころか館山までも来ておらず、全列車が東京~君津間の運転なのだ(京葉線経由)。しかも、東京行きは朝方3本、君津行きは夕方から夜に5本の運転で、土曜・休日はすべて運休という完全な通勤特急になっているのだった。君津~館山の定期運転が廃止されたのは2015年3月のダイヤ改正からだというから、ずいぶん前からこの形になっていたわけだ。現在、君津以南には新宿発着の臨時列車「新宿さざなみ」が2往復設定され、土曜・休日に館山まで運転されているが、今の季節は1往復のみである。アクアラインの開通や高速バスの利便性向上により「さざなみ」の乗客は減少していたというし、南房総への観光輸送についてJR東日本はもはやクルマやバスと競争する気がないのだろう。民間企業としては、経営の効率化を優先して、儲からないことはなるべくやりたくないのだろうし、最近のJR各社は経営環境の悪化もあって赤字ローカル線は片っ端から廃止したいという本音を隠さなくなっている。実際に廃線にするかどうかは別にしても、房総半島先端部の区間JR東日本にとっては要らない路線ではあるのだろう。現場レベルではそんなことは考えていないだろうけれど、列車はワンマン、駅は無人化が進み、現場の人員も大幅に削減されているのが現実である。

 

 それはともかく、これからどうするか。

 1995年に自転車で房総半島を旅した時は3日目に和田浦を出発し、半島最南端の野島崎や最西端の洲崎を回り、東京湾沿いを北上して、結局、木更津まで走り、当時は健在だったフェリーで川崎に渡って、確か夜の10時頃、東京の自宅に帰りついたのだった。走行距離は147キロにもなり、ヘロヘロになりながらも1日でこんなに走れるものかと自分でも驚いたのを覚えている。あの時は自転車で1日150キロ近く走るというのは信じられない距離だったが、今ではまあ普通の距離になっている。年齢とともにだんだんきつくはなっていると思うけれど。

 で、今日はどうするか。いくつかの考えがあって、館山からバスで洲崎灯台へ行く、浜金谷でロープウェイで鋸山に登る、浜金谷からフェリーで三浦半島久里浜に渡る、木更津から久留里線を往復してくる、など。

 電車は千倉で外房の海と分かれ、内陸部を横切って、館山に到着したが、ここで降りるのはやめる。雨はすでに上がっている。

 館山からは東京湾沿いを行く。東京湾とは思えないぐらい美しい東京湾を時折、車窓に見ながら列車は北上し、房総丘陵から続く鋸山の下をトンネルで抜けて、浜金谷には14時10分頃到着。とりあえず、ここで下車。

 東京湾フェリーの発着港があり、まさに鋸のようなギザギザの岩峰が連なる鋸山を望む浜金谷には海鮮料理の店や海産物などを扱う土産物店も多く、観光客で大いに賑わっていた。交通手段は圧倒的にクルマが多いのだろう。

 港へ行ってみると、14時25分発の久里浜行きの「かなや丸」がちょうど出ていくところだった。

 対岸の久里浜まで40分、900円。

 僕もこのフェリーで久里浜に渡ることを考えていたが、次の船は15時20分。気持ちが変わって、物産館でちょっとした買い物をして駅に戻り、15時08分発の木更津行きに乗る。2両編成の電車は混んでいて、ずっと立ちっぱなしだった。

 浜金谷から竹岡、上総湊にかけてはトンネルの合間に海岸風景が楽しめる区間だが、ゆっくり景色を眺めることもできないまま、電車は海辺を離れた。

 木更津の一つ手前の君津に15時36分着。ここで26分も停車するが、君津始発の快速逗子行きが15時39分に先発するので、乗り換える。こちらは15両編成である。木更津行きの2両編成から大半の乗客が乗り換えても、さすがに15両もあればガラガラである。それでも千葉、東京、横浜を結んで走る区間はそれなりの乗車率になるのだろう。

 木更津に着くと、久留里線の上総亀山行きがすぐに接続するので、ちょっと心が動いたが、ここでは降りず、そのまま乗り続ける。まだ車窓に田園が広がってはいるが、臨海工業地帯が近く、住宅も増え、旅の気分ではなくなってきた。それでも、まだ旅は終わらない。 

 あと1回つづく