MAGMA in Tokyo 2022

 フランスのロックバンドMAGMAが3年ぶりに日本にやってきた。御多分に漏れず彼らもコロナ禍の影響でコンサート活動が思うようにできない時期が続いていたが、この間にニューアルバムを完成させ、ライブ活動も徐々に再開。アルバム発売に合わせるように来日し、大阪で1回、東京で2回の公演を行った。その東京初日、EX Theater ROPPONGI公演を観てきた。

 これは来日前の予告編。


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 2019年の来日の後、メンバーの変更があって、女性ヴォーカル3名が加わり、ヴォーカリストが計6人と声のパートを大幅に強化した11人編成。それが今回の楽しみでもあった。ツアータイトルの「ESKÄHL」は途中下車の意味だという。バンドの創始者であるChristian Vanderはもう70代だが、終着駅はまだまだ先ということなのだろう。

 開場は18時。検温と手の消毒をしての入場。見ていると、体温34℃台の人が多い。そんなはずはないが、実際より明らかに低い数字が出るというのは他の場所でも多い気がする。僕は35℃台だった。ここで37℃以上だったりすると入場できなかったりするわけだが、そういう面倒なことにならないように数字が低めに出るような設定になっている、なんてことはないのだろうけれど。

 グッズ販売に長蛇の列ができていたので、僕は並ばず、客席へ。確か明日の渋谷公演はオールスタンディングだったと思うので、座席のある今日のチケットを取ったのだった。

 ステージ上には赤い照明を浴びた楽器群。センター奥にひときわ存在感のあるドラムセット。客席からみてドラムの右側がベース、左側がギターの定位置である。そして、ステージの左右にキーボードが向かい合うようにセットされ、左右の奥の台上にスタンドマイクが2本ずつ。センターにもスタンドマイク2本。メンバー11人はこれまでの来日公演では最多だろう。

 客席には外国人の姿もちらほら。フランス語が聞こえてきたりもする。男性が多いが、女性もけっこういる。若い人もいる。

 19時開演。盛大な拍手に迎えられ、ステージ上にメンバーが登場。

 Christian Vander : drums,vocal

 Stella Vander: vocal

 Herve Aknin: vocal

 Isabelle Feuillebois: vocal

 Sylvie Fisichella: vocal

 Laura Guarrato: vocal

 Caroline Indjien: vocal

 Rudy Blas: guitar

 Thierry Eliez: keyboad,vocal

 Simon Goubert: keyboad

 Jimmy Top: bass

 

  前回の来日メンバーのうち、Christian,Stella,Isabelle,の不動の3人とHerve,Rudyの合わせて5人は引き続き参加。そこにChristianとは1980年代からOFFERINGなどで付き合いの長いSimonが正式メンバーとして名を連ね、70年代に在籍したJannik Topの息子Jimmyが加わり、さらにThierry,、そして『Zess』のレコーディングにも参加していたSylvie,Lauraと昨年加入のCarolineがコーラスである。

 最新アルバム『KARTEHL』ではChristian以外にHerve,Thierry,Simonが1曲ずつ提供しており、すべて10分以内の比較的短い曲で構成されている。印象としては70年代後半から80年代初頭の『Attahk』~『Merci』に通じるイメージ。30分を超える長尺曲が珍しくないMAGMAの作品は聴く側もその曲のパワーに対峙するだけのエネルギーを要求されたりするが、この新作はMAGMAらしさを失わずに、でも、不思議な爽快感もあって、聴き終わると、すぐにまたリピートしたくなる傑作。今日のステージではその全曲が演奏された。

 

 1曲目は新作から「Walomendëm Warreï」。Thierry の曲。冒頭から圧倒的なコーラス全開だ。Thierryもシンセを弾きながら歌っている。御大Christian は74歳とは思えぬパワフルなプレイを披露し、71歳のStellaの声にも衰えは感じない。そして、Jimmyのベースは父親の伝説的なプレイを思い起こさせるように唸りをあげる。Simonの弾くピアノはMAGMAといえばのFender RhodesではなくNord Electroだ。

 

2曲目は旧作の「K.A. I」。長尺曲のPart1のみ。

 3曲目はまた新作からChristian作の「Hakëhn Deïs」。実は70年代の作曲された曲で、開放感のあるアップテンポの曲。

 4曲目はHerve作の「Do Rïn Ïlï Üss」。リズミカルな演奏をバックにカラフルなコーラスが展開する。
 5曲目はChristianによる「Irena Balladina」。冒頭部分がちょっとKobaiaを思わせるが、ゆったりとしたジャズ風のリズムにスキャット風のコーラスが乗る曲で、これはChristianの母親に捧げられた曲だそうだ。

 6曲目はSimon作の「Wïï Mëlëhn Tü」。いきなりHerveの奇想天外なスキャットで始まり、地を這うような展開から徐々に天上の音楽へと変化していく。

 Christian以外のメンバーが書いた曲もしっかりとMAGMAの音楽になっていて、違和感はまったくない。

 そして、あのイントロが始まった。「Mekanïk Destruktïw Kommandöh」。馴染みの曲だけに客席の拍手も一段と大きい。

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 圧倒的な演奏と歌声による至福の時間。これで本編終了。

 アンコールはアルバム『Merci』収録の「The Night We Died」。不吉なタイトルだが、荘重なコーラスに感動する。

 そして、メンバー紹介があり、これで終わりかと思いきや、ラストに「Dëhndë」。Christianがセンターで歌い、Simonがドラムを叩く。Simonはピアニストであると同時に優れたジャズドラマーでもある。リラックスした雰囲気の曲。

 MAGMAのコンサートは毎回が特別な体験だが、今回もまたスペシャルな一夜だった。夢から覚めたような気分で、六本木から乃木坂まで歩いて、千代田線で帰る。