Acoustic Asturias Live

 昨日(1月15日)、吉祥寺のStar Pine's CafeでAcoustic Asturias(アコアス)のライヴ。

 アコアスはヴァイオリン、クラリネット、ピアノ、ギターという編成で長らく活動を続けてきたが、昨年1月に活動をいったん終了。その後、全く新しいメンバーを集めて再始動した。

 新編成はクラリネットに代わってチェロが加わり、しばらく作曲や編曲、プロデュースなどの裏方に回っていたリーダーの大山氏が演奏メンバーに復帰。10年ぶりだとか。アコアスはクラシック音楽並みに練習が大変なので負担が大きく他の活動との両立が困難、という理由で演奏からは退いていたのだが、ここで再びステージに立つというのは自分の曲を演奏するといえども、けっこうなプレッシャーがあるのかもしれない。

 とにかく、星野沙織(Vn)、北川とわ(Pf)、ヌビア(Vc)、大山曜(Gtr)という新しい布陣での最初のライヴが決まり、また、ピアニストの北川さんが率いるジャズトリオMorphine Desert-trio acoustic-の対バンも組まれ、この日を楽しみに待っていたのだが、思わぬ事態が発生。

 メンバーのうち北川さんとヌビアさんが直前の体調不良で欠席となってしまい、急遽ピンチヒッターを探して、2人の穴を埋め、これも不参加となった北川さんのトリオに代えて星野さんが参加しているナリキヨトリオに急なお願いで演奏してもらうことになり、なんとか無事にライヴ開催に漕ぎつけたということなのだった。

(終演後に撮影)
 ということで、弱い雨が降る吉祥寺に出かけ、17時開場、17時45分開演。ほぼ満員である。

 最初に大山さんが登場して挨拶の後、まずはナリキヨトリオ。リーダーがピアノの成清翠さんなので、この名前。全然知らないグループだったが、ピアノ、ヴァイオリン、鍵盤ハーモニカという変わった編成で、面白そう。

 成清翠(Pf)、星野沙織(Vn)、荻原和音(Melodica)。3人は音大時代の同級生だそうだ。

 アコアスは室内楽のような編成ながら、一応プログレッシヴロックというジャンルに分類されているので、そうした客層を意識して、最初の2曲はかなりアグレッシヴな演奏。本来はヒーリング系らしい。ヒーリング系などというと、凡庸なものも多いのだが、なかなか良かった。


www.youtube.com

 また、最近は唱歌をアレンジして演奏するシリーズをやっていて、唱歌ばかりをやるツアーが今年の夏に計画されているとのこと。

 

 さて、休憩を挟んで、Acoustic Asturias。2人が病欠ということで、ピアノには関口太偲さん、チェロには佐野まゆみさんが参加。

 先ほどは黒い衣装に黒ぶちメガネだった星野さんが白の衣装に着替え、メガネなしで出てきた。佐野さんも白系の衣装。男2名は暗色系。そして、全員が座っての演奏で、本当に室内楽団といった雰囲気。

 1曲目は「深夜廻のテーマ」。クラシカルな曲調で、まずは全体の序曲といった感じ。やはりクラリネットとチェロでは雰囲気がだいぶ変わる。筒井香織さんのクラリネットもよかったけれど、チェロの響きも好きなので、今後が楽しみでもある。

 2曲目は「アドレセンスィア」。佐野さんが自分の演奏に納得がいかないかのような表情を浮かべていて、複雑すぎるリズムをつかむのにちょっと苦戦しているような部分もあった気がするが、だんだん合ってきた。練習を始めたのが3日前ということなので、それで複雑極まりないアコアスの曲を弾きこなすというのはやはり凄いとしか言いようがない。

 3曲目はElectric Asturiasの曲「Castle in the Mist」。星野さんのヴァイオリンは演奏も素晴らしくて、音が胸の奥にまで入り込んでくる。グッとくる。前任のテイセナさん(今日の会場に来ていた)はいつも譜面なしで弾いていたが、星野さんは譜面台を置いている。それが普通だ。

 4曲目は本日欠席の北川さんが作った「Snowy Landscape」。リハーサル時にも作曲者不在で、譜面だけがあるという状況だったので、残ったメンバーで曲を解釈し、今日の演奏になったとのこと。

 北川さんから体調不良で出演できそうにないと連絡があったのが1月4日だったそうで、それから急遽、代わりのピアニストを探したが、アコアスの曲はポップス系のピアニストではまず歯が立たず、バリバリのクラシック系の人材が求められる。しかし、そう簡単には見つからない。その時、テイセナさんが「いい人がいる」と言ってきたという。それが大山氏のレコーディングに参加していた関口さんだった。しかし、そのレコーディングで関口さんが弾いた楽器はヴァイオリン。「彼はヴァイオリンじゃないの?」という大山氏に対してテイさんは「彼はヴァイオリンもすごいけど、ピアノもすごい」というので、大山氏がYouTubeなどでチェックしてみたら、本当にすごかったという話。投打ともに超一流の大谷翔平のような二刀流なのだった。実際、彼の演奏は完璧だった。彼の弾く「Distance」を聴いてみたい。

 もう一人のピンチヒッターの佐野さんはもっと急だった。ヌビアさんが参加できないという話になったのが、ほぼ1週間前だったそう。さすがに大山氏は公演中止も考えたそうだが、星野さんが「何としてもやりましょう、私が探します」といって見つけてきたのが佐野さんだったという。ただ、その時点で佐野さんはチェロを持たずに帰省中で、数日間は送られてきた譜面を見ながら音源を聴き込み、帰省から戻った本番3日前から実際にチェロを手にして練習を始めたのだった。クラシックの人なら譜面さえあれば初見でもある程度は弾けるのかもしれないが、変拍子だらけで、やたらに難度が高い曲ばかりだから、相当大変だったのだろう。

 とにかく、新メンバーのお披露目ライヴと銘打った公演で、その新メンバー2名が病欠というあり得ない事態に直面しながらも、急遽、出演を引き受けた関口さん、佐野さんのおかげでこのライヴが実現したわけで、いずれ伝説のライヴと語り継がれることになるのだろう。

 5曲目はもともとチェロをフィーチュアしていた「クリプトガム・イリュージョン」。チェロのふくよかな響きが印象的。

 6曲目は新曲で、大山氏が新編成のために書いたという「heliocentrism」。またまた大変な曲ができてしまったものだ。


www.youtube.com

 7曲目はこれもエレアスの「時を支配する人々」。

 8曲目はしっとりした「Luminous Flower」。これまでのアコアスの定番曲をあえて外したような選曲が続く。

 9曲目は「The Lancer」。これもアコアスで聴くのは初めて。

 本編最後の10曲目は大山氏が旧編成でこの曲をレコーディングできなかったことが心残りだと語る、ポール・ゴーギャンの作品にインスパイアされた「我々はどこから来たのか、我々は何者なのか、我々はどこへ行くのか」。

 そして、アンコールは「神の摂理に挑む者たち」。クラリネットのパートがチェロ用に全く違う形に書き換えられていて、ずいぶん印象が変わるし、ヴァイオリンのパートも演奏者が違うとずいぶん違って聴こえるというのが興味深かった。アストゥーリアスの曲がクラシックの世界にもレパートリーとして広がっていくと面白いと思うのだが。


www.youtube.com

 20時10分ぐらいに終演。

 

 今日の公演は有料配信も行われていて、映像が残るはずなので、一部でも公開されると嬉しいし、いずれ新生アコアスの演奏が映像作品化されることを期待したい。

 次回のライヴはもう決まっていて、3月25日とのこと。今日は欠席だった2名も復帰するだろうけれど、代演の2名にものすごく大変な練習をしてもらって、今回限りでは申し訳ないということで、関口さんと佐野さんも次回再びステージに立つそうだ。なので、ピアノとチェロはダブルキャストのライヴということになる。楽しみ!