佐々木譲『ワシントン封印工作』

ワシントン封印工作 (文春文庫)

ワシントン封印工作 (文春文庫)

 戦争回避か、開戦か。日米間の和平交渉が続く1941年、ワシントンの日本大使館臨時雇用された医学生・大竹幹夫は、同僚の日系人タイピスト、ミミ・シンプソンに一目ぼれする。しかし、ミミは国務省の高官ホルブルックが潜入させたスパイであり、ホルブルックの愛人でもあった。
 ワシントンを舞台に同時進行する外交交渉と恋愛模様の行方を描く長編小説。だが、日米交渉の結末については、最終的に交渉が決裂し、しかも真珠湾攻撃の直前に日本側から米国政府に手交する手筈だった交渉打ち切りと宣戦布告の通告が日本大使館の大失態によって真珠湾攻撃の後になってしまい、その結果、宣戦布告なしに攻撃を開始した卑劣な日本(人)という汚名を着せられる結果になったことも含めて、すでに歴史的事実として知っているわけで、この小説はむしろ恋愛小説として読むべき作品かもしれない。日米開戦という最悪の事態でこの小説は幕を閉じるわけだが、大竹とミミとホルブルックの三角関係の行方については、予想外にさわやかな読後感が残る。