NATIONAL HEALTH/National Health (1978)

ナショナル・ヘルス(紙ジャケット仕様)

ナショナル・ヘルス(紙ジャケット仕様)

 ナショナル・ヘルスは1970年代後半に活動し、いわゆるカンタベリージャズロックのひとつの完成形を世に示した英国のバンドである。カンタベリー派とは英国南東部のカンタベリーで結成されたワイルド・フラワーズから分派したソフト・マシーンとキャラヴァンという2つのバンドを源流とする音楽一派で、その特徴は音楽家としての飽くなき探究心をもって、ジャズやロック、現代音楽などあらゆる音楽の要素を貪欲に取り込み、構築性と即興性を兼ね備え、細部のアレンジから楽器の一音一音の音色に至るまで非常に凝った曲作り、音作りをする点と言えようか。そのため聴き手の側もじっくりと音楽を聴き込むことを求められ、その分、マニアックな音楽とは言えるかもしれない。また実際、集中して聴くことによって、より多くの発見と感動を味わえる作品が多いのも確かだ。こう書くと、非常に難解そうに思われるかもしれないが、実際は至るところにウィットとユーモアが散りばめられ、聴いていると(あるいは聴く前からジャケットや曲名などで)思わずニヤリとさせられてしまう部分も多い。要するに、ミュージシャン自身がやりたいことをやりたい放題にやって楽しんでいて、その面白さを聴衆も共有することで楽しむ、といった性質の音楽なのだ。入門編としてはキャラヴァンあたりがジャズっぽいノリのソフトポップといった風情で親しみやすいし、心地よい音楽でもあり最適だろう(とくに3rd“In The Land of Grey and Pink”)。

グレイとピンクの地+5

グレイとピンクの地+5

 さて、ナショナル・ヘルスである。カンタベリー派のハットフィールド&ザ・ノースとギルがメッシュという2つのバンドのメンバーを中心に1975年に結成されたバンドであり、初期のメンバーにはイエスやキングクリムゾンのドラマーだったビル・ブルフォードもいたことで知られる。しかし、当時はパンク/ニューウェイヴの全盛期であり、彼らの複雑な音楽はレコード会社から悉く無視されるという憂き目に遭い、ようやく1枚目のアルバムが発表されたのは1978年のことだった。2人のキーボード奏者、アラン・ガウエンとデイヴ・スチュワートを中心にフィル・ミラー(G)、ニール・マレイ(B)、ピップ・パイル(Ds)、アマンダ・パーソンズ(Vo)、さらにゲストとしてフルートの名手ジミー・ヘイスティングス、ジョン・ミッチェル(Perc)を加え、力強く、美しく、むちゃくちゃカッコイイ音楽を演奏している。僕はこの作品を20年以上愛聴しているけれど、まるで飽きるということがない。それどころか、いまでも聴くたびに新たな発見をして感動を覚えたりする。最終曲で1曲目のテーマが再現され、最後は夜風のようなフルートが吹き渡るなか、星空の彼方にゆっくりゆっくり舞い上がっていくような静かなエンディングが感動的。
 ミソサザイのさえずりが高らかに響き渡るさわやかな朝の情景から始まる2nd"Of Queues and Cures”も絶品。
オブ・キューズ・アンド・キュアーズ(紙ジャケット仕様)

オブ・キューズ・アンド・キュアーズ(紙ジャケット仕様)