ドン行自転車最果て行き~最後に最高の礼文島

   久種湖

 礼文島に来て3日目の朝。曇り空だが、ところどころ青い色ものぞき、雲も朝の光で銀色に光っている。天気が崩れることはなさそうだ。気温は16度。少し肌寒い。

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 炊事場の冷たい水で洗面を済ませ、まずは早朝の久種湖を反時計回りで歩いて一周。

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(月見草の咲く小道)

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 久種湖は船泊湾へ注ぐ大備川が海岸砂丘でせき止められてできた湖で、周囲3キロほど。北岸のキャンプ場から西岸にかけては遊歩道が整備され、丘陵の裾を進む。ヤナギの仲間やハンノキ、イタヤカエデなどが生えている。花もたくさん咲いているが、オニユリのほかはマツヨイ草(月見草)やジャコウアオイ、シロツメ草、アメリオニアザミなど帰化植物が目についた。野鳥はウミウアオサギハクセキレイ

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 湖の南側は湿地帯で、ミズバショウの群落があり、また牛が放牧されている。ここを木道で過ぎると、一般道に出て、東岸を北上。右手のトドマツ林では木々が冬の季節風に背を向けるように傾いて生えていた。

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(最北限の牛乳)

   香深へ

 さて、テントをたたんで、8時に出発。船泊の集落を抜け、かつては稚内からの船便もあった船泊港を左に見ながら金田ノ岬へ向かう。この岬の上には礼文空港がある。
 紅白の灯台が立つ岬の先端をマラソンの折り返し地点のような急カーブで回ると、急に北東からの風が強くなった。あとは香深まで東海岸をひたすら南下すればよい。
 途中、ポニーのいる牧場の前で自転車のタイヤに空気を補充し、雲間から漏れる光で、ところどころ銀色に輝く海を眺めながらのんびり走っていると、目の前をイタチが横切った。
 上泊からは昨日も走った道。空はだんだん晴れてきて、最初は裾野しか見えなかった利尻山も全容を現わした。浜辺のあちこちに砂利の広場があり、昆布を並べて干してある。

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 水中公園ではまた管理人のおじさんと顔を合わせた。

「秋めいてきたねぇ。もうすっかり秋風だもんね」

 この旅ももうすぐ終わりなので、少ししみじみとした気分になる。
 昨日拾ったメノウを見せると、「これはいいメノウだ」とここでも言われた。元地の山中にメノウの原石があり、それが大雨などで崩れて海中に沈み、波にもまれるうちに小さく削れて、浜に打ち上げられるそうだ。元地沖の海底には大きな原石がゴロゴロしているという。
 ほかに、利尻と礼文を結ぶ航路はいつも揺れること、礼文島には水産加工場がないため、礼文の漁船は稚内で水揚げすることなど、いろんな話を聞いて、20分ほどでおじさんと別れた。

 

   最後に最高の礼文島

 香深に戻り、フェリーターミナルのそばの店で買い物をして、それからまだ船には時間があるので、また桃岩展望台まで登ってみた。
 昨日はひどい霧だったが、今日はすっかり晴れ上がり、これ以上の晴天は望めない最高の天気である。

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 丘には夏の名残の花が咲き乱れ、真っ青な礼文水道の彼方に利尻島がくっきりと浮かんでいる。空も海も風も丘も花も、すべてが輝いて見える。この島から離れたくない。強くそう思った。

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   礼文稚内航路

 後ろ髪を引かれる思いで香深に下り、昼食をとった後、13時05分発の稚内行き「フィルイーズ宗谷」に乗船。2等運賃が2,100円で自転車が1,150円。

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 埠頭では有名な桃岩荘ユースホステルの連中が踊りながら船を見送っている。
 船が岸壁を離れると、たまらない寂しさがこみ上げてきた。もう手の届かない、明るい緑の丘の島がきらめく海の彼方にどんどん遠ざかっていく。右舷には利尻島が浮かんでいる。稚内まで1時間55分の航海。

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 それにしても、雨と霧で今日とはまるで別の島のように陰気だった礼文に上陸したのが、まだ2日前のことだとは思えない。ましてや、利尻島やそれ以前のことなど遠い昔のことのようだ。陰と陽、礼文島の二つの顔に触れたお蔭で、時間の遠近感がすっかり狂ってしまったようだった。

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(ノシャップ岬を回って稚内港へ)

    抜海の丘より

 稚内からは大きな荷物をすべて宅配便で自宅に送り、列車の輪行で帰った。
 宗谷本線を南へ下る列車が抜海の丘にさしかかると、車窓に一度だけ日本海が広がった。誰もが海に浮かぶ利尻富士に目を奪われる名所だが、僕の視線はむしろ礼文の島影を探し求めていた。島は利尻の北方にうすぼんやりと浮かんでいた。実のところ、ここから礼文島も見えることを初めて知った。
 列車はすぐに海岸を離れ、礼文島も見えなくなったが、利尻富士だけはいつまでも薄い青の三角形を原野の彼方にのぞかせていた。

                       ドン行自転車最果て行き おわり