解散宣言から32年

7月17日といえば、キャンディーズ日比谷野外音楽堂でのライヴの終演間際に突然の解散宣言を行った日。あれから32年になるのか。
解散宣言といえば、ランちゃんが発した「普通の女の子に戻りたい」の言葉が有名で、それが解散理由と今でも広く信じられているわけだが、そこに込められた複雑で微妙なニュアンスをくみ取って考えなければならないと思う。
現在、伊藤蘭さん、田中好子さんはともに女優として活躍していて、そのために今でも「結局、普通の女の子に戻れなかったキャンディーズ」という物言いがなされたりする。
しかし、ランちゃんはキャンディーズ結成前から女優を志していたし、今は完全引退しているミキちゃんも音楽の道に進みたい気持ちがないわけではなかったようだ(スーちゃんだけは解散後は自分のお店を持ちたい、というような希望を語っていたと思うが…)。ただ、彼女たちが芝居や音楽の道をずっと歩んでいきたいと思っていても、それすら困難な状況に追い込まれていたのだと思う。あまりに過酷なスケジュールに追いたてられ、プライベートな生活を楽しむ時間はもちろん、芸能人として自分の芸を磨く時間すら持てなかったであろうからだ。忙しすぎて、自分たちが納得のいくような仕事ができない、というフラストレーションは相当にたまっていたのではないか、と僕は想像する。
たとえば、「みごろ! たべごろ! 笑いごろ!!」。あのバラエティー番組、実は当時、僕はあまり見ていなかったのだが、みんなが絶賛するほど面白いとは思えないのだ。もちろん、見ていて思わず笑ってしまうシーンはたくさんあるのだけど、キャンディーズのお笑いのセンスはこんなものではないはず、と思えてならない。そこにはやはり、ぎっしり詰まったスケジュールの問題があったのだろうと思う。要するに、時間がなくて、コントを十分に練り上げることができなかったのではないか。彼女たちはコントの台本をただ覚えるだけでなく、自分たちでどんどん作り変えて、リハーサルと本番では全く違うものを出してきたという。そういう高いレベルで取り組んでいたからこそ、時間のなさは彼女たちの悩みの種だったのだろうと思うのだ。
また、音楽においても、十分な練習の時間がとれないまま、レコーディングをこなしていたというから、このままではすべてがやっつけ仕事になってしまうという危機感があったのではないか。そして、そんな状態でキャンディーズを続けるより、きれいなまま終わりにしたいという気持ちが強まっていったのだろう。キャンディーズを解散した後、どういう進路を選ぶにせよ、いったん自分を見つめなおして、リセットしたいという願望を持つことも極めて自然なことだっただろうと思う。
ただ、巨大プロダクションに所属し、芸能界のしがらみの中でがんじがらめになっていた状況を考えると、あそこで解散を宣言し、マスコミの激しいバッシングと周囲の冷淡な視線に耐えつつ、自分たちの意思を貫徹したことは本当にすごい。
いま考えても、キャンディーズ古今東西の数あるグループの中でももっとも見事な解散を成し遂げたグループであり、それゆえに伝説となり、今も人々の心に残っているのだろう。