松本清張『神と野獣の日』

 ある早春の午後、某国から東京に向かって5発の核弾頭ミサイルが誤射された。1発で、東京から半径12キロ以内が全滅するという。在日米軍自衛隊が迎撃にあたるが、5発すべての阻止は困難。着弾まで、あと43分…。
 この絶望的な状況で、日本政府や国民はどう行動するか。松本清張にしては珍しいSF的小説だが、震災直後、原発事故が進行中の今、読むと、総理大臣とその周辺の人物の言動などには妙にリアリティーを感じてしまったりもする。
 作家の人間観が濃縮された形で表現される状況設定だが、同じ設定で、ほかの小説家ならどんな作品が出来上がるのか、読んでみたい気もする。
 昭和38年に『女性自身』に連載された作品だが、話の途中で着弾時刻がなぜか54分延びるのは、43分ではあまりに短すぎて小説として描くことも描けないという作者の都合か…。

神と野獣の日 (角川文庫)

神と野獣の日 (角川文庫)