岡崎琢磨『珈琲店タレーランの事件簿』

「京都の小路の一角に、ひっそりと店を構える珈琲店タレーラン』。恋人と喧嘩した主人公は、偶然に導かれて入ったこの店で、運命の出会いを果たす。長年追い求めた理想の珈琲と、魅惑的な女性バリスタ・切間美星だ。美星の聡明な頭脳は、店に持ち込まれる日常の謎を、鮮やかに解き明かしていく。だが美星には、秘められた過去があり…。軽妙な会話とキャラが炸裂する鮮烈なデビュー作」

 この一文を読むと、いかにも『ビブリア古書堂の事件手帖』の二番煎じを予想させる。舞台を鎌倉の古本屋から京都の珈琲店に変え、美人古書店主が美人バリスタに…。
 宝島社の新人賞「このミステリーがすごい!」大賞で、受賞には及ばなかったものの、編集部推薦の“隠し玉”として刊行された一冊、ということである。著者と協議のうえ応募作を全面的に改稿したのだという。
 『ビブリア』の二番煎じでもいいから、あのレベルの作品であることを期待して読んでみた。
 結果的にいうと、『ビブリア』にはだいぶ及ばない。
 読んでいて、引っかかる部分、釈然としない部分があっても、作者はスルーして、そのまま物語を進めていき、あとで、その部分が実は謎解きの伏線でした、というような箇所がいくつかあり、ミステリーとして、もうひとつだなぁ、と感じた。ただ、まんまと作者に騙された箇所も当然ながらあって、それなりに楽しめたことは確か。実際、読み出したら、最後まで一気に読んでしまった。まぁ、時間つぶしにはなる。
 全面的に改稿したというわりには、まだ改めるべき点はありそうに思うのだが。もっと良くなる可能性があったはずの作品だと思う。個人的にこの手の作品は嫌いではないだけに、惜しい。