越谷オサムの(個人的には待望の)新作が出た。
- 作者: 越谷オサム
- 出版社/メーカー: 徳間書店
- 発売日: 2016/11/22
- メディア: 単行本
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満月の夜、小田急江ノ島線の沿線にある親友の家で飲み、家庭の温かさに触れて、ホームシックを感じつつ、江ノ電の柳小路駅そばにあるアパートの自宅に帰ると、そこから彼の生活は一変する。
ベランダで満月を眺めながら妻と電話で話していると、月の中に小さな黒点のようなものが現れ、みるみるうちに大きくなり、ものすごい勢いでこちらに迫ってきたのだ。人だ! 女の子だ!! 箒にまたがっている!!!
サッシ窓を突き破って、太郎の部屋に突入してきたのはデコレーションケーキのように派手な色づかいの服を着た少女。ガラスで額を切り、顔が鮮血で真っ赤に染まっているという凄惨な姿で登場したのは外見も中身も幼く見えるが、14歳のアリスと名乗る自称「見習い魔法使い」。一緒にいたのはモモンガともリスともつかない謎の小動物。アリスから「まるるん」と呼ばれるこの手乗りサイズの齧歯類は中年男の声で日本語を話し、魔法も使える。彼はアリスを補佐する相棒だという。そして、アリスは魔法学校で魔法を学んでいて、人間界のしきたりや習俗や行儀作法を身につけるために、いわば留学生としてやってきたのだった。そのホームステイ先として、子煩悩な太郎のアパートが選ばれてしまったわけだ。
とにかく、太郎の抵抗むなしくアリスとまるるんは次の満月までという約束で、太郎のアパートに居候することになる。他人である少女を自宅に同居させているなどという事実が家族や会社にバレれば大変なことになるわけだが、さてどうなる。
ここまでだと荒唐無稽なファンタジーだが、中盤以降、アリスのような魔法使いとはどんな存在なのか、ということが明らかになるにつれて、読み手の気持ちはガラッと変わってしまう。切ないような、やるせないような…。
一体、この物語にはどんな結末が待っているのだろう。いろいろと想像しながら、読み進めていく。そして、最後にはこの作品を読んでよかった、という気持ちになった。
この先、江ノ島に出かけたら、島に通じる橋の途中で足を止めて、しばし空を見上げてみることになりそうだ。
近々、藤沢に住む妹に会う予定なので、貸してやるかな。