八ヶ岳山麓らくらくサイクリング

  夏の北海道自転車旅行では網走で自転車を分解し、東京まで列車に積んで帰ってきた。いわゆる「輪行」というやつだが、これは一度覚えると非常に便利である。鉄道と自転車を組み合わせれば日帰りツーリングの行動範囲もグンと拡大する。

 というわけで、今回は輪行八ヶ岳の麓の高原地帯を走ってこようと思う。小海線野辺山駅は日本の鉄道駅としては最高所にあるから、そこまで列車で行けば、あとはどちらへ行くにしても下り坂ばかり。こんな手抜き(足抜き?)サイクリングは本格派の自転車乗りからみれば邪道に違いないが、たまにはいいでしょう。

 

 夜明け前に出発し、分解・袋詰めした自転車を担いで京王線に乗り、高尾まで行って、中央線の7時02分発甲府行きに乗り換える。中高年の登山客が非常に多いほか、輪行の若者も何人かいる。けっこう仲間がいるんだなぁ、と嬉しくなるが、彼らはみんな塩山で降りてしまった。恐らく柳沢峠を越えて奥多摩方面へ下るのだろう。

 

 甲府からは松本行きにすぐ接続。甲府盆地は真っ白な靄に包まれていたが、韮崎あたりから良い天気になった。

 晩秋の南アルプスを眺めながら、列車はグングン高度を上げていく。各駅のホームに標高の表示があり、日野春が615メートル、次の長坂が740メートル(北海道の知床峠と同じだ!)、そして9時45分に到着した小淵沢が881.5メートルである。

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 小淵沢で10時16分発の小海線に乗り換え。接続列車待ちのため定刻より9分遅れで満員の行楽客を乗せて発車したディーゼルカーはカラマツの黄葉の中をさらに上っていく。晩秋から初冬のたたずまいの高原が美しくて、これからこんな風景の中を愛車で走れるのかと思うと、ワクワクしてくる。

 

 乗客の大半を清里(標高1,275m)で降ろし、標高1,375メートルの日本鉄道最高地点を通過して、まもなく野辺山駅に到着。列車が遅れていたので、正確な到着時刻は分からないが、たぶん11時05分頃だっただろう。

 さっそく駅前で自転車を組み立てる。野辺山駅の標高は1,345.67メートル。青空が広がり、陽射しも明るいが、小春日和というには風が冷たい。

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 11時15分に野辺山駅前をスタート。急に自由になって、どちらへ走ろうか迷う。最終的には甲府あたりまで走ってみようと考えているが、標高1345.67メートルというせっかくの「貯金」をすぐに使ってしまうのも惜しい気がして、しばらくは野辺山駅周辺をウロウロと走る。この辺に僕の貧乏性的な性格が表れている。

 

 予想に反して、まだ雪のない赤茶けた八ヶ岳連峰を眺め、高原の農場地帯をゆっくり走るうちに国立野辺山展望台のパラボラアンテナ群が見えてきた。

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 内部見学ができるというので、入ってみる。標高が高く、空気が乾燥し、冬も雪が少ないという野辺山高原は宇宙観測に適した条件が揃っており、世界最大という直径45メートルの電波望遠鏡のほか、多数のアンテナによって宇宙からの電波を観測しているのだという。素人には難しくて、さっぱり理解できなかったが、こんな場所でこれからの季節に夜空を眺めたら、さぞかし綺麗だろうなぁ、とは思う。

 

 その後、近くの南牧村農村文化情報交流館というなんだかよく分からない施設内のレストランでエビピラフの昼食を済ませ、すっかり葉を落としたカラマツ林の中を行く。

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 まもなく小海線の踏切がある。そこに先ほど列車の車窓から見た標高1,375メートルの「JR鉄道最高地点」の標柱が立っていて、高原野菜の直売所などがある。

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 国道141号線清里方面へ向かい、長野県から山梨県に入って、まもなく右折。ここからは上り坂だ。「貯金」を使うばかりではなく、少しは自力で蓄えを殖やそう。たちまち、額に汗が滲んでくる。

 学校寮が集まる地区を上っていくと、やがて「美しの森」に出た。眺望に恵まれた小高い丘である。駐車場の隅に自転車を置いて、散策路を歩いてみる。

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 標高1,500メートルほどの冬枯れの丘を登っていくと、間近に八ヶ岳が迫り、振り返れば、雄大な高原の彼方に奥秩父の山々が続き、富士山が霞み、南アルプスが連なっている。素晴らしい晴天の下、しばしの高原散策を楽しんだ。

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 再び自転車の人に戻り、「標高1,477m」の標識と一緒に愛車の写真を撮ってやり、清里の市街へ一気に下る。

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 静かだった野辺山とは違って、清里は大変な人出。相変わらず東京・原宿のような雰囲気だ。こんな場所はすぐに退散。でも、観光の人と車で混み合う街を自転車でスイスイ走り抜けるのは気分がよかった。

 

 清里からは国道をはずれて線路沿いの道を行く。基本的にずっと下り坂だが、谷筋を横切る時はグンと下った後にリバウンドがあって少し上る。野辺山あたりでは終わっていたカラマツの黄葉が標高が下がるにつれて美しくなってきた。

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(吐竜の滝)

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 途中、「吐竜(どりゅう)の滝」という小さな滝に寄ったりしながら、晩秋の陽射しのなか、落ち葉がハラハラと舞う道をのんびりと走る。

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甲斐小泉駅)

 甲斐大泉(標高1,158m)、甲斐小泉(標高1,044m)と小さな高原の駅を訪ねながら、重力に任せてグングン下って、小淵沢駅前に着いたのが15時半。予定よりはだいぶ遅い。日没までに甲府までたどり着けるかどうか。まだ40キロ以上はありそうだ。

 小淵沢からはペースを上げて、県道17号線(茅野小淵沢韮崎線)をひたすら突っ走る。甲府の標高がどのぐらいか知らないが、880メートルほどの小淵沢からまだ500メートル以上は下ることになるのだろう。

 長坂を過ぎるあたりで甲府盆地の方角の空に黒い雲が立ち込めてきたことに気づく。雨に降られるなんてことになるのだろうか。このあたりはまだ西陽が差して、柿の実が夕陽色に輝いている。

 日野春、穴山と過ぎて、新府城跡を通り、ループ線をぐるりと回ると、まもなく韮崎市街。だんだん薄暗くなってきた。

 甲府盆地へ下って、塩崎で日没を迎え、あたりが暗くなると、冷え込んできた。何かに急かされるような気分でペダルを踏み続け、結局、甲府駅前に着いたのは17時30分だった。あとは自転車をバラして、電車に乗るだけだ。

 本日の走行距離は84.2キロ。あとで調べてみると、甲府の標高は250メートルほど。ということは最高地点の1,477メートルから1,200メートルぐらい下ってきたことになる。