越谷オサム『空色メモリ』

空色メモリ

空色メモリ

 小説でもマンガでも音楽でも…、「風」とか「空」とか「雲」とかいう言葉がつくタイトルだと、つい手に取ってしまう。それでも内容まで自分の好みに合っているとは限らないから、大抵は手に取っただけで、実際に読んだり聴いたりするまで行かずに終わってしまうのだが。
 でも、これは読んでみました。近所の図書館にあったので。
 空色メモリ。いいタイトルだね。でも、それが空色のUSBメモリのことだと分かると、なぁんだ、と思ったりもしたが、でも、これはけっこう面白かった。
 どんな話かというと。

「たったひとりで県立坂越高校文芸部を守る、ハカセこと河本博士に春が来た。なんと、可愛い新入生が入部してきたのだ。彼女の名前は、野村愛美さん。ブンガク少女らしからぬ彼女が、なぜ人気のない弱小文化部に入部を決めたのだろう? 不思議な雰囲気の彼女には、何か秘密がありそうだが。そんなあれこれを空色のUSBメモリに綴り始めた。その空色メモリが思わぬ騒動を巻き起こして…。気鋭の著者が満を持して贈る、学園青春小説の決定版」

 空色メモリに記録された文書の綴り手、つまり、この物語の語り手は、ハカセの友人で、文芸部に所属はしていないが、部室に入り浸っている、ブーちゃんのあだ名をもつおデブな男子生徒・桶井陸。
 ハカセが恋する野村さんも、上のあらすじには「可愛い」と書いてあるが、すごい美少女というわけでもなく、陸の表現によれば、顔は十人並みの、地味なメガネ女子だ。
 要するにモテない男子2名と地味な女子1名がこの物語の中心人物なわけだが、空色メモリの存在がある事件を引き起こして以降、ストーリーに大きく絡んでくる、野村さんの友達・サキが一番イキイキと描かれている。

 この人の作品を読むのは『陽だまりの彼女』『ボーナス・トラック』についで3冊目だが、なんだかいいね。読後感もさわやか。まぁ、最後で、次のページをめくったら何も書いてなくて、「え?ここで終わりなの?」と思ってしまったのも事実だけど。