越谷オサム『房総グランオテル』

房総グランオテル

房総グランオテル

 越谷オサムの新作が出た。この人の作品はとりあえず買う。
 今回の舞台は房総半島の太平洋岸にある海岸リゾート・月ヶ浦。架空の地名だが、明らかに御宿である。少なくとも、僕は御宿の風景を思い浮かべながら読んだ。そこにある房総グランオテル。Grand Hotelのフランス語読みであり、立派な、あるいはオシャレなリゾートホテルを想像するが、実際は漁師町ならではの海鮮料理が売り物の民宿兼食堂である。木造から鉄筋コンクリートの二階建てに建て直した際に「漁師民宿ふじひら荘」から改名したのだった。
 本の帯に「海辺の民宿を舞台にとびっきりの奇跡が起きる最高にキュートな物語」と書かれているが、キュートどころか、物語はその民宿の客室でいきなり「私」が何者かに銃口を向けられているという緊迫したシーンから始まる。
 この「私」とは両親が営む民宿の看板娘で17歳の女子高生、藤平夏海。10月半ばのある日、彼女が学校帰りに月ヶ浦駅で降り立つところからストーリーは改めて始まる。その日、彼女の自宅である民宿には3人が宿泊の予約をしていた。それぞれにワケありの3人の2泊3日の間の出来事を描くのがこの作品であり、ストーリーは夏海と3人の客、合わせて四つの視点で語られる。
 一体、なぜ冒頭の緊迫シーンが生まれてしまうのか、夏海に銃口を向けてるのは誰なのか。
 キャッチコピーにある「とびっきりの奇跡」を予定調和の出来すぎた話と感じる人もあるかもしれないが、僕は楽しめたし、越谷オサムの作品は読んで損はない、というこれまでの印象は今回も裏切られなかった。
 とにかく、夏海が魅力的。こういうキャラクターを描かせると、越谷オサムは抜群に上手い。