都民の森「夜行性動物&野鳥観察会」その2

 3時半に目が覚めて、雑魚寝の休憩室をそっと抜け出て、研修室へ行ってみる。まだ真っ暗だが、雨は止んでいる。遠くでカッコウの仲間のジュウイチが「ジュウイチ」と一声鳴いた。
 もう起きているのか、まだ起きているのか、熱心に窓の外を眺めている若い女性1名。あの後、タヌキが合計4匹くらい出てきたそうだ。
 僕も窓辺の椅子に座って外に目を向けるとタイミングよく3時35分にまたテンが出てきた。
 4時を過ぎると、周囲の山々に朝の兆しが訪れ、山のどこかで一羽のアカハラが「キュロン、キュロン、チリリ」と澄んだ声を出す。その声でまた一羽が目を覚まして一声鳴く。また一羽が目を覚まして一声。そうやってまるでオーケストラの楽器がひとつずつ加わっていくように、さまざまな野鳥たちが目を覚ましては歌をうたい出し、やがて山全体が小鳥の声で満ち溢れていった。こんな経験は初めてで、ちょっと感動してしまった。

 白々と夜が明けた4時50分には夜行性動物にかわって餌場にニホンリスが出てきた。北海道のエゾリスシマリス、鎌倉のタイワンリスは何度も見たのに、ニホンリスは初めてだ。2〜3匹が次々と出てきて、あたりを駆け回る。ほかにカケスもやってきて、パンくずをくわえて飛び去った。
 森林館にはまだ朝日が届かないが、山の高いところには光があたって、新緑が輝き出した。野鳥は本当に色々な種類が声を聞かせ、姿を見せてくれた。僕のような素人レベルではほとんど識別不可能だが、浦野さんがいるから心強い。テラスから望遠鏡で色々と観察。山のてっぺん付近を飛ぶイカル、稜線に突き出た木の上で「ポポ、ポポ、ポポ、ポポ…」と鳴くツツドリ、それに「アーオ、アーオ、オアーオ」と不思議な鳴き方をするアオバトの緑色の姿もはっきり確認できた。森林館の屋根にはキセキレイミソサザイがやってきて声と姿で我々を楽しませてくれたし、ほかにオオルリキビタキセンダイムシクイビンズイの声も山から降ってきた。

 そして、ついに山のひときわ高い木のてっぺんで高らかに歌う憧れの青い鳥、オオルリの姿も浦野さんが望遠鏡でとらえ、みんなで順番に覗き込んだ。白い胸をこちらに向けているので、背中の美しいコバルトブルーは分かりにくかったが、やっと出会えた喜びは大きい。

 各自で軽い朝食をとった後、6時半から早朝の森に散策に出かける。未明の雨が嘘のように素晴らしい晴天で、下界には秋川の谷を埋める雲海が広がっている。


 ヒガラが「ツピン、ツピン、ツピン…」と早口でさえずり、我々の行く手をリスが跳ねるように駈けていく。
 「チョチョビー」と鳴くセンダイムシクイの愛らしい姿を双眼鏡で観察し、「シシシシ…」と虫のような声で鳴くヤブサメのさえずりも聞いた。散策路上にアカハラが姿を見せ、オオルリも何羽か見ることができたし、三頭大滝付近では黒と黄色と白の、これまた憧れの鳥、キビタキの姿を見ることもできた。
 オオルリキビタキも東南アジア方面で冬を過ごし、春になるとはるばる日本へ渡ってきて繁殖する夏鳥。その羽色の美しい色彩は熱帯魚に通じるものがある。

 三頭沢に沿って登り、野鳥観察小屋を経て、森の中をぐるっと回って9時15分に森林館に戻ったが、ほかにミソサザイコマドリシジュウカラ、コガラ、ヤマガラツツドリといった鳥たちの声を耳にし、またエゾハルゼミの声も聞いた。道端にはフモトスミレが可憐な花を咲かせていた。東京の自然のなんと豊かなことか!
 
 森林館に帰りつくと、この楽しかったイベントもおしまい。研修室で閉会式があり、9時半に解散。なんだか名残惜しい。こんな機会があれば何度でも参加したいと思う。
 すぐには帰りたくなくて、また三頭大滝までひとりで往復。オオルリなどの声を聞いてきた。大きな満足感を胸に、11時過ぎのバスで森をあとに山を下る。