都民の森の自然観察会(その3)

 先週末(5月11日~12日)、東京・檜原村の三頭山の山腹、標高1,000mから1,500mに広がる都民の森で宿泊イベント、自然教室「野鳥の声と哺乳類・星座観察」に参加した話の続き。

 夜行性のヒナコウモリやハクビシン、テン、タヌキを観察し、22時過ぎには寝袋で仮眠。

 ふと目が覚めて時計を見ると午前1時半だった。普段ならまた眠ることに専念すればよいわけだが、ここではそうはいかない。ちょっと寝袋を抜け出して、テラスに出てみる。

 南東の空に木星が一番明るく輝き、2時間ほど遅れて昇ってきた土星も光っている。頭上も満天の星だ。といっても、周囲を黒々と山のシルエットに囲まれ、空は広くはない。

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(南東の空に輝く木星土星

 僕が寝ている間にテラスにわずかに残った人たちが天体望遠鏡木星土星を観察していたようだが、今は「はくちょう座」の頭部に位置するアルビレオが視野に入っているという。覗いてみると、黄色っぽい大きな星と青っぽい小さな星が互いに寄り添うように輝いている。アルビレオは肉眼だと単一の星に見えるが、実際は3等星と5等星の二重星なのだ。その美しさは古くから知られ、宮沢賢治も『銀河鉄道の夜』の中でトパーズとサファイヤにたとえている。

 アルビレオの写真はこちら

 それで思い出したが、2001年夏に北海道北部の初山別村でキャンプをした時、隣接する天文台天体望遠鏡アルビレオを観た。その時、3等星のほうは地球から300光年の彼方にあると教わった。1秒間に地球を7周半する光の速度(秒速30万キロ)で300年かかる距離で、1光年が大体9.46兆キロ、大雑把に言って10兆キロとすれば、300光年とは3,000兆キロということになる。気が遠くなるような数字だが、このぐらいは広大な宇宙の中では近所と言える距離だと聞かされたのが印象に残っている。改めて調べてみると、アルビレオまでの距離はもう少し遠いようで、434光年など、いくつかの数字が出ている。いずれにしても、近所なのだろう。

  当時の旅の記録

 森ではまだトラツグミが鳴き続けている。この声を聞きながら天体観察とはなんて贅沢な時間だろう。午前1時半過ぎだけど。

 ネット上から拝借したトラツグミの声。これとほぼ同じ声だった。低い声と高い声が交互に聞こえたのも一緒だが、これは1羽が鳴き分けているのか、2羽が鳴き交わしているのか。


トラツグミの鳴き声 (Zoothera dauma singing)

 

 再び寝袋で眠って、次に目を覚ますと3時45分頃だった。普通ならまだ起きる時間ではないが、そろそろ野鳥たちがさえずり始める時間でもある。そして、この時間帯こそ僕が一番楽しみにしていた時間でもある。睡眠不足なのに、よくぞこの時間に目が覚めた、と自分を褒めたい。

 外に出てみると、相変わらずトラツグミの声だけだ。過去にはこの時間帯にヨタカやジュウイチも鳴いて、不思議というか不気味な雰囲気を醸し出していたものだが、今回はヨタカは出なかったようだ。

 研修室では一人が起きていた。テンが出ている。しかも、昨夜の顔が真っ黒な夏毛の個体ではなく、まだ顔が白っぽい個体だ。

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 テンが姿を消すまで見守って、再びテラスへ出てみると、いつのまにか、それは始まっていた。最初に目を覚ました野鳥の1羽がさえずると、それをきっかけに小鳥たちが次々と目を覚まして歌いだし、たちまち山全体が野鳥のコーラスで満ちていくのだ。

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 昔、この野鳥の声を録音してみたことはあるのだが、今回は動画撮影してみたら、どんな感じになるのだろう、と思っていたのである。

 こんな感じになりました。


都民の森の夜明け(午前4時頃)

 オオルリミソサザイキビタキセンダイムシクイ、ヒガラ、ウグイスなどに加えて、ツツドリやジュウイチ、さらにクロツグミもさえずり、山はどんどん賑やかになっていく。夜通し鳴いていたトラツグミの声だけは聞こえなくなった。

 4時15分頃。

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早朝の都民の森

 だんだん明るくなって、山の上でアオバトも鳴きだした。「アーオ、アーオ、オーアーオ」と子どもが奇声を発しているのかと思うような、これも不思議な鳴き声である。下の動画でも冒頭部分でミソサザイオオルリなどの声に交じって、アオバトの声がかすかに聞こえる。


朝の都民の森

 周囲の山々の新緑が輝きだし、テラスにも人が多くなってきた。思い思いに野鳥を観察したり、朝食をとったり、小学生の男の子が自分で撮影した写真で制作中の野鳥図鑑を見せてもらったり・・・。

 過去のイベントでは朝、ニホンリスが出てくることが多かったが、今日は出てこなかった。

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 モミの木のてっぺんでさえずるオオルリ。遠いうえに逆光で真っ黒。

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 コガラ。

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 いろいろな鳥がいるが、この時間帯の楽しみはやはりアオバトだ。山の高いところで相変わらず鳴いている。姿を探していると、上空をなぜかカワウが1羽、飛んで行ったりする。奥多摩湖の方向へ飛び去る。

 ついにアオバトの姿を発見。新緑の山でアオバトを見るのは実はかなり貴重な経験なのだそうだ。

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 ほかにも森林館の屋根でミソサザイが大声で長く複雑な歌をうたい、キセキレイやカケスもやってくる。ウグイスも盛んにさえずっているし、ゴジュウカラもフィフィフィフィとさえずっている。アオゲラも甲高い声で鳴いたり、上空を飛んだりする。

 奥多摩周遊道路のバイクの音も聞こえだし、やがて登山客もやってきた。一番乗りかと思ったら、森林館にこんなに人がいて驚いているかもしれない。

 

 それからまた昨日と同じルートを三頭大滝まで散策してきた。

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 まずはサワグルミの花を食べにくるアオバトを探す。でも、見つからず。

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 昨日と同じ場所でキビタキがさえずっていたが、姿は見当たらず。ヤブサメも近くでさえずっていたが、やはり見つからず。

 オオルリの姿を探しているところ。

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 カッコウの仲間、ツツドリが「ポポ、ポポ、ポポ、ポポ・・・」と鳴きだした。山の稜線の枯木で鳴いているのを浦野さんが発見。スコープに入れて、みんなで観察。ツツドリの声も山ではよく聞くが、姿を見るのは難しい。

 こんな見え具合だけど、ツツドリ

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 ツツドリ観察中。

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 三頭大滝付近のアオバトの古巣など見て、森林館に引き返す。

 アオゲラが盛んに鳴いている。ドラミングも。

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 楽しかったイベントももう終わり。

 今回見たり、声を聞いたりした野鳥。(下線は実際に姿を確認した鳥)

 カケスヒガラコガラヤマガラ、ウグイス、ミソサザイオオルリキビタキアオバトトラツグミ、マミジロ、ノスリツツドリ、ジュウイチ、フクロウ、ゴジュウカラヤブサメセンダイムシクイキクイタダキシジュウカラコルリキセキレイクロツグミアオゲラアカゲラヒヨドリカワウエナガ

(以上28種。このうち僕はフクロウのみ未確認)

 

 哺乳類 ヒナコウモリ、ハクビシン、テン、タヌキ(4種)

     +個人的には往路にバス車中から目撃したニホンザル1匹。

 その他 アズマヒキガエル(幼生)、ニホントカゲ

 アンケートに記入して、10時にはイベント終了。帰りのバスは10時35分だが、もう少し山歩きがしたい。それで大きな荷物は研修室の隣の小会議室に置かせてもらい、ひとりでもう一度山へ。もう一組、荷物を預かってもらう家族連れがいるようだった。次のバスは13時05分だ。

 都民の森で一番大きなモミの木。

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 メインルートから外れたコースを歩いたので、誰にも会わない。クマよけの鈴を持たずに来たので、ちょっと不安でもある。

 小さな物音も聞き逃すまい、と神経を研ぎ澄ませながら歩いていると、実際にカサッ、カサッとかすかな音がしたりして、生き物の気配はいろいろ感じる。夜に活動した動物たちも今頃は山のどこかで眠っているのかもしれない。

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 そのうち、コマドリのような声が聞こえてきたが、チッチッチッチッという前奏がついているので、コルリだとわかる。かなり近い。オオルリと違って、地面近くで鳴くので、姿を見つけるのは困難な鳥だが、もしかしたら見つけられるかもしれない。しばらく足を止めて、探したが、結局、見つけられず、そのうち声も聞こえなくなった。

 この近くでコルリがさえずっていた。

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 森林館の野鳥紹介コーナーのコルリキビタキの写真。こういう写真を見ると、実際に会ってみたいなぁ、と思う。

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 まもなく枯木をコツコツコツとつつく大きな音が聞こえてきた。キツツキだ。アカゲラか、アオゲラか。アカゲラ希望だったが、探してみると、アオゲラだった。写真を撮ろうとしたら、幹の裏側に回り、どこかへ飛び去った。

 野鳥観察小屋にやってきた。休憩がてら立ち寄る。清掃作業中のおじさんがいた。机にリュックサックなどが置いてある。

「こんなところまで登ってきて作業というのは大変ですね」

 と話しかけると、シルバー人材センターから派遣されて、週に一度、この下の三頭大滝のトイレとこの野鳥観察小屋、さらに森林館に近い炭焼き小屋の清掃などをしているそうだ。年齢は74歳。一日の山仕事で1万2千歩ぐらいになるとのこと。しかも、すべて山道だ。

 森林館にも毎晩、職員の帰宅後、シルバーの方2名が宿直しているという。そういえば、いつもイベントとは直接関係のない年配の人が森林館に泊っている。昨夜も泊っていて、けさ野鳥のためにパンくずをまいていた(上のコガラの写真)。ほかにも登山道の補修作業などをすることもあるそうだ。つるはしなどを担いで登るのだから大変だ。山での作業は担い手が不足気味だという。お疲れ様です。

 オオルリミソサザイの声を聞きながら三頭沢沿いに下る。

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 三頭大滝まで下ってきた。先ほど大勢で訪れた場所を今度はひとりで。

 イヌブナ。

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 先ほども声を聞いた、ちょっと変わった鳴き方をするオオルリがまだ同じ調子でさえずっている。遊歩道から見えづらい木に止まっていて、朝の散策では姿は観察できなかった。浦野さんによれば、ピンポイントでその木が見える場所があるとのことだったが、すでに通り過ぎており、時間もなかったので、そのまま帰ってきたのだった。浦野さんがいう場所はこの辺ではないか、と見当をつけて、双眼鏡で探すと、すぐに見つかった。木のてっぺんに止まっている。山の緑をバックにして、よいカメラで撮れば、なかなかよい写真になりそうだった。

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 こっち向いて・・・。

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 雨が降ってきた。大した降りではなく、実際にすぐ止んだが、もう帰ろう。

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 森林館に戻ると、もう朝まで一緒だったイベント参加者の姿はなく、見知らぬ登山者がちらほらいるばかり。小会議室に僕と一緒に荷物を預けた家族の荷物もすでになく、僕のリュックと寝袋だけがテーブルにぽつんと置いてあった。