柚木麻子『終点のあの子』

終点のあの子 (文春文庫)

終点のあの子 (文春文庫)

 「プロテスタント系女子高の入学式。内部進学の希代子は、高校から入学した奥沢朱里に声をかけられた。海外暮らしが長い彼女の父は有名カメラマン。風変わりな彼女が気になって仕方がないが、一緒にお昼を食べる仲になった矢先、希代子にある変化が。繊細な描写が各紙誌で絶賛されたオール讀物新人賞受賞作含む四篇」」
 帯にある「女子高生の友情はすぐ敵意にかわる」という言葉がこの作品の内容を表わしているが、同級生とさまざまな人間関係を築き、距離を置いたり、親しくつきあったりする中で、お互いが心の中に秘めた感情を主題にした連作。
 他者とともに生きていく上で、我々の心の中には、親しみ、共感、あこがれ、劣等感、嫉妬、差別、軽蔑、恨み、憎しみ…などなど、互いに矛盾する感情がひとりの相手に対しても、複雑に混ざり合って存在していて、ちょっとしたきっかけで、そのなかのある感情だけが強く意識に浮かび上がってくる。だから、それは時として自分でも驚くほど振幅の大きな感情の揺れとなって表れるわけだが、それはきっと珍しいことではないのだろう。それが女子高生の世界ではとりわけ極端な形で見られるのかもしれないが、男が読んでも、思い当たる部分は多い。
 鋭利な刃物のような感情が相手を傷つけると同時に自分も傷つける。せつないが、最後で少し救われる。この救いが本物であってほしいと思った。