オランウータンのポピー

 多摩動物公園にはキュー(1969年生まれ)、ボルネオ(1985年生まれ)、ポピー(2000年生まれ)、リキ(2012年生まれ)と4頭のオスのオランウータンがいる。
 まだ赤ちゃんのリキは別として、キューとボルネオには顔に立派な張り出し(フランジ)があるのに対して、13歳のポピーにはそれがない。それは13歳という年齢が人間でいえばまだ中学生だし、ポピーはまだ未成熟なせいだと思っていた。

(立派なフランジをもつキュー。今年45歳)

(ハンモックで寛ぐボルネオ。ポピーとリキの父でもある)

(2012年5月、11歳の時のポピー。すごい格好で食事中)
 ところが、ポピーと同年齢のメス、キキはすでに母親になって、立派にリキ(父ボルネオ)を育てている。ポピーは一体いつになったらオトナになるのだろう、と疑問を抱いていたのである。
 動物解説員さんの話によると、実はポピーもすでに繁殖能力をもつ立派な(?)オトナのオランウータンなのだった。
 まったく知らなかったのだが、オランウータンのフランジは強いオスの象徴であり、弱いオスは何歳になってもフランジができず(アンフランジ)、体も小さいのだそうだ。
 ポピーは身近にキューとボルネオ(ポピーの父)という強いオスがいて、自分のほうが格下であることを知っているため、アンフランジなのだ。
 フランジ♂同士はお互いに非寛容で、一緒にすると激しく闘争するそうだが、アンフランジに対しては寛容な場合もあるという。アンフランジ同士も敵対関係はほとんど見られないようだ。
 そして、フランジはのど袋が発達して、ロングコールという独特の声を発して、発情したメスがやってくるのを待つのに対して、体も小さいアンフランジはこっそりとメスに近づいて、しばらく一緒に過ごしたりして、なんとか交尾のチャンスをうかがうという。
 そして、アンフランジも、もし自分の周りから強いオス(フランジ)がいなくなると、急激にフランジが発達して、強いオスに変身してしまうというのだから不思議だ。オレは強くて立派な男なんだ、と自信をもてば、そういう容貌に変化する。スゴイね。
 アンフランジ生活も意外に気楽そうだ。

(雪の上のポピー)

(雪を食べる)

 でも、あからさまに弱いオスであることがバレてしまって、これでは同い年のキキには相手にしてもらえないかな。いずれはカップルになるのかと思っていたけど…。
 ポピーもいつの日かフランジになる日がくるのだろうか。ポピーがずっとアンフランジのままで、異母弟のリキが成長してフランジになったら、それはちょっと悲しいな。

 ちなみに多摩動物公園にスカイウォークが設置された時、最初に渡ったのがポピー。長さが150メートルもあり、その先に何があるか分からず、みんなが警戒する中、当時まだ少年だったポピーが好奇心を発揮して、母親(チャッピー)や祖母(ジプシー)の制止を振り切り、渡ってしまったのだった。