御岳山へ

 5月5日、新緑と夏鳥をめあてにどこか山へ行こうと考え、とりあえず御岳山へ行くことにした。

 朝4時半の月。

 4時前に目が覚めたので、小田急の始発で出かけ、南武線青梅線を乗り継ぎ、6時57分に御嶽駅に着いた。すでに登山客がたくさん乗っていて、御嶽でもかなりの下車客があった。

 御岳山へ行くには駅からバスとケーブルカーを乗り継いでいくのが普通だが、時間はたっぷりあるので、駅から歩く。

 御岳橋からの多摩川の清流が何とも気持ちがいい。

 街路灯の上でキセキレイがさえずり、ツバメが飛び交っている。ガビチョウの声も聞こえる。

 多摩川右岸の吉野街道を行くと、さっそくキビタキの声が聞こえてくるが、次々と走り去るクルマやバイクの音がそれをかき消してしまう。

 やがて、左手に火の見櫓が見えたので、ちょっと寄り道。その先にはお寺もある。

 心月院。弘法大師像が祀られているから真言宗だ。ウグイスの声を聞きながら、手を合わせる。

 参道沿いや境内に小さなお堂があり、石仏がある。

 観音菩薩地蔵菩薩

 庚申塔

 弘法大師像。

 街道に戻って、さらに歩く。ツバメがたくさん飛んでいて、ホオジロの声も聞こえる。

 街道から分かれ、赤い鳥居をくぐって御岳山への登山道路に入ると、山のほうからオオルリのさえずりも聞こえてきた。今年初めて聞く声だ。去年はここで実際にオオルリの姿を見たのだったが、今年は姿までは見つからず。ミソサザイの声も響いてきた。役者は揃っている。この先で姿を拝めるかどうか。

 寄り道も含めて40分ほどでケーブルカーの滝本駅に着く。バスで来た人たちが行列を作っているので、素通りして、この先も歩いて登る。

 滝本の由来となった小さな滝が傍らにある禊橋を渡り、「御嶽神社」の額がある石鳥居をくぐると、道の脇に大杉が聳えている。江戸初期に整備されたという表参道の杉並木で、樹齢は四百年近いのだろう。

 この道は去年も歩いたが、山上集落の居住者や通いの従業員、荷物や郵便の配送・配達のクルマやバイクが通れるように全区間舗装されている。ただ、道幅は狭く、かなりの急勾配。ヘアピンカーブが連続するので、車はカーブのたびに一度では曲がれず、切り返しをしなければならないようだった。

 滝本の標高がすでに400メートルを超えているが、神社がある御岳山頂は929メートルで、参道の長さは約3キロある。

 途中には「ろくろっ首」と呼ばれる旧道が残っていて、まさにろくろっ首のようにくねくねと曲がりくねっている。

 やがて、高いところからオオルリの声が聞こえたが、姿は見えず。ヒガラやキクイタダキの声も聞こえる。

 ケーブルカーに接近する地点では杉の木が何本か伐採されていて、丸太に腰かけて休憩している人がいた。

 斜面に生えた杉は根元の土が侵食されて、根がタコの足のように露出しているものが多く、だからといってすぐに倒れるわけではないだろうけれど、万が一倒れた杉の巨木がケーブルカーを直撃したら、大惨事は間違いなしである。そこで予防的に伐採したのかな、と思ったのだが、真相は不明。

(根っこが露出した杉が目につく)

 ところで、途中で気がついたのだが、杉の木には番号札が貼り付けられている。そして、進むにつれて、番号は小さくなっていくのだ。目の前にあるのは339と338である。スタート地点の杉が何番だったか確認しなかったが、あとで調べてみると784番であるらしい。伐採された木の番号は欠番になっていて、数字はどんどん減っていくので、これを励みに登ればいい。

 やがて、参道入口の禊橋と御師集落のほぼ中間地点で、かつては小さな茶屋があったという「仲見世」を過ぎ、ケーブルカーの高架をくぐる。ここまで滝本から27分。

 さらに少し行くと、団子堂。お地蔵さんを祀ったお堂があり、団子を供えたというので、この名がある。傍らにベンチがあるので、ちょっと休憩。今朝はまだ何も食べていないので、おにぎりを1個食べる。けっこう汗をかいた。滝本から表参道を歩いて登る人がいることは分かったが、御嶽駅からバスを使わずにずっと歩いてくる人というのはそんなにいないのではないか。それでも、昔の人は江戸からでも、どこからでも、自分の家からずっと歩いてきたわけだから、それに比べれば、電車で来ただけでも、相当楽をしているのは間違いない。

(ケーブルカーが登っていく)

 さて、歩くか。目の前の杉の番号は305番だ。

 しばらく上ると、キビタキのさえずりが聞こえ、ほとんど同時にツツドリの声も聞こえてきた。キビタキはかなり近い。姿を見つけられそうだ。杉と新緑の広葉樹が混交して、そのどこかにいる。絶好のチャンス。なんとか姿をカメラに収めたいと思うのだが、なかなか見つからない。しばらくピッコロのような声で弾むように歌うと、場所を移動するので、木から木へと飛ぶ姿は何度か確認できたのだが、見やすい場所には止まってくれずに、だんだん遠くへ行ってしまった。

  とりあえず音声だけでも、と動画撮影してみた(サムネイル画像は過去の撮影)。


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 これも過去に撮影したキビタキ。この場所で撮りました、と噓をついてもバレないかな?

 まだまだ粘れば撮影チャンスはありそうにも思えたが、後ろ髪を引かれる思いで歩き出すと、すぐにまたキビタキの声。ただ、今度の個体はまだ声が本調子ではないのか、いかにもメスにもてなさそうな歌声だった。

 杉の木の番号はどんどん減っていき、3、2、1。1番の杉はかつて黒門があったという場所にあり、さらに道は続いて、ケーブルカー御岳山駅からの参道に合流。急に人が増えて賑やかになった。ここからは宿坊が並ぶ御師集落を行く。ここまで滝本から1時間10分ほど。キビタキ探しで15分ぐらいは樹上を見上げていたので、歩いた時間は1時間弱か。

 すぐにビジターセンターがあるが、まだ9時前で開いていなかった。

 参道途中の宿坊の前の台上にラップでくるんだ手作りおにぎりがザルに盛ってあって、1個100円。ミニチュアの賽銭箱があり、そこにお金を入れるシステム。気まぐれおにぎり屋と書いてあり、前回もここを通った時に買わなかったけれど、記憶には残っていて、今日も売っていたら買ってみようと思っていたのだ。

 タケノコご飯と山椒味噌のおにぎりを買う。

 樹齢千年という神代欅。

 土産物屋が軒を連ねる通りを抜けると、御嶽神社の石段の前に出る。これを登り切ったところが山頂だ。

 しかし、僕は山頂までは行かず、心の中で神様を拝んで、随神門から脇道に逸れる。現在の時刻は9時07分。御嶽駅からここまで2時間ちょっと。けっこう疲れた。

 少し行くと、長尾平。ヘリポートのある展望台からの眺め。

 東側。クロツグミの声が聞こえた。

 西側。ひときわ高いのは御嶽神社奥の院

 長尾平の分岐からは養沢川の谷へ向かって急な下りを行く。段差が大きく、上りも辛そうだが、下りも足への負担が大きい。それでもどんどん下って、養沢川の七代の滝へ。

 昨年はここでミソサザイがさえずっていて、写真も撮ったのだが、今日は鳥の声が全く聞こえない。ただ水音だけ。去年はこの先でオオルリの写真も撮ったので、また期待しているのだが、ここで声が聞こえないということは、オオルリもこの近辺にはいないということか。ちょっとアテ外れだ。

 七代の滝の周辺には今から1億5千万年以上前のジュラ紀に深海の底に堆積したチャートの岩盤が露出していて、滑落死亡事故が発生したとの注意書きがある。確かに滑りやすそうなので、注意しながら滝を眺め、さらに進む。

 この先には渓谷美が素晴らしいロックガーデンがある。

 

 つづく