ロックガーデンから大岳山へ

 5月5日に奥多摩の御岳山へ行った話の続き。標高929メートルの山頂のすぐ下から急斜面を下って七代の滝を見たところから。

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 七代の滝。

 七代の滝から岩場に架けられた鉄の階段や露出した木の根っこを足掛かりにして急斜面を登り、天狗岩に出る。巨岩の上に天狗が祀られている。

 この付近は個人的にはオオルリウォッチングのポイントになっていて、今回も期待していたのだが、声が全く聞こえない。さえずりがなければ探しようがないので、そのまま歩き続けるほかない。

 これは去年のオオルリ

 人が多い天狗岩は素通りして、再び下っていくと、七代の滝の上流部にあたるロックガーデンに出る。

 渓流と岩石、苔、木々の緑が織りなす天然の庭。ミソサザイが水音にも負けない大きな声で複雑な節回しの歌を聞かせてくれる。


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 ラショウモンカズラが咲いていた。

 深い海の底に堆積してできた岩盤が凄まじい地殻変動の結果、このような山奥に露出するまでの壮大な時間を考えると、地球の歴史の中で人類が存在する時間というのはほんの一瞬のようなものなのだろうと思ってしまう。

 我々が目にする大地の姿というのは、常に現在進行形で変化する途中経過でしかない。

 ロックガーデンの終点、綾広の滝までやってきた。山岳霊場の水行の場である。

 滝壺の傍らの岩の上に骨が一本。シカの脚の骨か。

 去年はここにミソサザイのつがいらしい2羽がいたのだが、今日は見当たらず。声も聞こえず。そういえば、去年はここでもオオルリの写真を撮ったが、今日はロックガーデンではオオルリキビタキの声をほとんど聞かなかった。そのかわりキセキレイが1羽飛んできた。

 綾広の滝から斜面を上り、御嶽神社からの道と出合う。ロックガーデンは過去に3回歩いたが、いずれもここから御嶽神社のほうへ戻った。逆方向へ行くと大岳山である。標高は1,200メートル以上あり、途中に岩場や鎖場もあるそうだが、まだ10時半を過ぎたところで、時間はたっぷりあるから今日は大岳山に登ってみよう。御前山、三頭山と並ぶ奥多摩三山のひとつに数えられ、独特の山容で都心から見ても、目立つ山である。古くは海上からも航海の目印となったという。

 多摩動物公園から見た大岳山。

 ということで、さらに奥地へと歩き出す。御嶽神社周辺の賑わいに比べると、ロックガーデンはだいぶ人が少なかったが、ここからはさらに人が少なくなる。ただ、これは時間帯のせいでもあるだろう。あと1、2時間もすれば、もっと人が増えるはずだ。

 沢を渡り、斜面につけられた山道を登っていくと、前方にガイドに引率された十数人のグループがいた。その後ろをゆっくり行けばいいな、と思ったのだが、ガイドさんが「ちょっと左に寄って道をあけてください」といって道を譲られてしまった。仕方なく一団を追い抜いて先へ行く。

 アオゲラの声に続いてドラミングを耳にしながら、ひたすら登って行くと、道標のある峠に出た。芥場峠というらしい。左に行けばサルギ尾根、上高岩山方面、右が大岳山からさらに鋸山、馬頭刈尾根方面だ。

 しばらくは比較的歩きやすい針葉樹林の道を行く。しかし、「この先滑落事故多発、岩場・鎖場あり」の看板があり、自分の体力や装備を考えて、引き返すなら今のうちですよ、というメッセージなのだろう。ゆっくりと慎重に歩くことにしよう。

 やがて、左は植林されたヒノキ、右は新緑の広葉樹となり、まもなく明るい新緑の尾根道に出た。風が心地よい。山桜の花びらが散っていて、タチツボスミレがわずかに咲き残っている。

 こういう道ならいくらでも歩けるな、と思ったが、少し行くと、いよいよ岩場が多くなり、鎖が張ってある場所も出てくる。ただ、それほど険しいというほどでもなく、鎖につかまらなくても歩ける。

 なかなか味わい深い標識だ。「滑落注意」。一歩一歩慎重に。

 道はだんだん険しさを増し、時に手すりや鎖、岩や木の根につかまりながら、ゆっくりと登り、やがて左下に廃屋らしき建物がある広場に出た。10人余りがベンチで休んでいる。

 この建物は大岳山荘といって、2008年まで営業していたそうだが、今はだいぶ荒れ果てて、屋根も歪んでいる。

 さて、ここには鳥居があり、石段を登れば大岳神社がある。

 祭神は大嶽大口眞神、つまりオオカミである。日本人はニホンオオカミを絶滅に追いやってしまったので、まだ神様がいるのかどうかはわからない。

 社殿の前には狛犬ではなく、狛狼。雄雌がはっきり分かるようになっている。こちらは雄。

 神社の脇からさらに登る。あと一息だが、ここからがまさに急登で、道は険しく、岩場、鎖場も本格的になる。両手両足で岩にしがみつくようによじ登る場所もあって、これは登るのも大変だが、下るのも怖いな、と思いながら登る。

 そして、ついに大岳山の山頂に到着。時刻は11時半頃。途中では遠くが見える場所はほとんどなかったが、ここで一気に視界が開ける。

 標高1266.4メートル。富士山もばっちり見える。

 さほど広くはない山頂には20人ほどはいただろうか。大岳山には御岳山からだけでなく、奥多摩方面からも檜原村方面からもルートがあるので、次々と到着し、みんな大岳山の標柱と富士山をバックに写真を撮り、周囲の風景をぐるりとスマホで動画撮影したりしている。外国人もいる。

 僕も御嶽駅から歩いて4時間半かけて登ってきたので、感慨もひとしおではあるが、ゆっくりと休むような場所もない。

 二等三角点。

 丹沢から奥多摩へと連なる山並みを見渡し、頭上の木々の新緑を眺め、正午前には下りにかかる。

 険しい岩場を慎重に下り、登ってきた同じ道を戻る。

 早朝から登っている人は登山用品の専門店でウエアから様々な装備までしっかり揃えた本格的な人が多いが、今ごろのんびり登ってくるのは気軽に山歩きを楽しむといった風の人たちで、アジア系の外国人の家族連れなども多くなってくる。その服装で大岳山の岩場は大丈夫か、と思うようなスカートの女性もいた。

 芥場峠を過ぎて、まもなく近くでオオルリの声が聞こえた。斜面の下に生えた木がちょうど目の高さに枝を広げていて、そのどこかに止まって、とても良い声でさえずっている。姿さえ見つかれば、ばっちり写真が撮れそうなのだが、見つけられない。

 一度飛んだので、一瞬だけ姿が見えたが、ますます見えにくい場所へ行ってしまったので、諦めて歩き出す。ほかにアオゲラやカケスが飛ぶ姿も見たが、今日は夏鳥ウォッチングという意味では大きな成果は得られず。

 御嶽神社

 奥の院(1,077m)の遥拝所。

 往路に御嶽神社に参拝しなかったので、帰りには石段を登ってお参りし、下りは14時半頃のケーブルカーで山を下り、そこからバスを使って御嶽駅まで。どちらも満員で立ちっぱなしで、歩くより楽という感じでもなかった。青梅線の電車も青梅までは座れず。

 自宅から自宅まで33,728歩。

 本格的な夏が来る前にもう一度ぐらいどこかの山に登りたい。