函館の一日

 函館のホテルで迎えた朝。今日は深夜のフェリーで青森に渡る予定なので、一日中函館にいられる。

f:id:peepooblue:20200306193458j:plain

 威勢のいい掛け声が飛び交う朝市を見物した後、函館駅構内の「オアシス」という喫茶店でモーニングサービスの朝食を済ませ、荷物はコインロッカーに預ける。

 これから大沼公園まで行ってこようと思い、10時09分発の函館本線・森行きに乗車。

 函館から大沼に至る車窓というのは久しぶりとはいえ、見慣れた風景であり、江差線津軽海峡線)を分岐する次の五稜郭まで電化されているのが目新しいぐらいだ。

 仁山高原への坂を登って、トンネルを抜けると、小沼と駒ケ岳の絵葉書のような風景が視界に飛び込んでくる。今日は天気も良く、殊のほか素晴らしかった。

 10時55分着の大沼で下車。函館市内には雪はないが、ここまでくると、いくらかは残っている。あてもないまま線路沿いの道を次の大沼公園駅まで歩いた。

 大沼公園駅前には雪の滑り台があり、子どもが遊んでいたが、観光地のわりには閑散としている。

 とにかく、小沼の湖畔へ足を向けると、途中に「鹿園」というのがあり、囲いの中でエゾシカが飼育されていた。ここにも誰もいない。観光客が多すぎるのも嫌だが、これだけ人がいないのも寂しい。

f:id:peepooblue:20200306193639j:plain

 氷が張り詰めた小沼の湖面は積雪が少ないので、鏡のように空を映して青く白く輝き、駒ケ岳も湖面に白い影を落としている。

f:id:peepooblue:20200306193752j:plain

 明るい湖畔の道を小鳥の声を聞きながら歩いていると、あの浜小清水の散策で感じたような幸せな気分に浸ることができた。

 さらに線路沿いに北へ行くと、右手に大沼が広がり、両側が湖となる。小沼の北岸付近は氷がなく、そこに白鳥や鴨が集まっていて、そこだけ観光客が集まっていた。

f:id:peepooblue:20200306193849j:plain

 さて、帰りの列車の時間をあまり気にしていなかったため、大沼公園駅12時57分発の函館行きにタッチの差で乗り遅れてしまった。駅の時刻表を見ると、次の普通列車まで2時間半以上もあるので、途方に暮れようとしたら、駅前13時発の函館行きバスがあった。1日3便しかないバスだから、本当にラッキーで助かった。

  函館市内に戻り、駅前市場の一角にある「桃太郎食堂」で味噌ラーメンを食べ、それから街をあてもなく歩き回り、津軽海峡に面した大森海岸で夕暮れを迎える。

f:id:peepooblue:20200306194005j:plain

 北海道とはこれでまた当分お別れなので、夕食は奮発して駅に近い寿司屋に入った。板さんによれば、この時季に雪のない函館なんて初めてとのこと。やはり異常な暖冬なのだ。それでも夜になれば、僕には十分すぎるほど寒い。そういえば、今日から札幌で雪まつりが始まったそうだ。雪まつり、冬まつりの類は最近は各地で行われており、僕も明日は岩手の雪まつりに行ってみようかと思っている。

 基本的にビンボー旅行だから寿司屋で食べまくるというわけにもいかず、足りない分は函館駅の立ち食いそばで埋め合わせ。あとは駅の待合室で時間をつぶす。

 売店で入手した函館市内地図によれば、フェリーターミナルの最寄り駅は函館から二つ目、列車で10分の七重浜である(道理で遠いわけだ)。乗る予定のフェリーは23時35分発で、それに乗るには函館21時34分発の江差線・上磯行きに乗ればよい。

 なんとなく心寂しい函館駅をあとに1両きりのディーゼルカー七重浜に着き、夜道を1キロほど歩くと函館フェリーターミナルがあった。不便なようだが、利用するのはトラックや乗用車がほとんどなので、こんな場所でも問題はないのだ。そもそも、これから乗る便の青森到着は未明3時15分。一般客が利用する時間帯ではない。青森のフェリーターミナルで夜明かしできるだろうと勝手に決め込んで、そのつもりにしている。

 ちなみに青森までの2等運賃は1,400円。ずいぶん安い。鉄道だと函館・青森間は2,800円なので、ちょうど半分である。

 待合室にいるのはやはりトラックの運ちゃん風が多いが、意外にも若い旅行者や高校生グループもいた。どちらにせよ、船はガラガラだろう。

 青函航路はさすがに大間航路とは違って、2,000~3,000トン級の船が就航しているようだが、これから乗るのは、なかでは一番小さな2,291トンの「びすば」で、定員は456名。

 乗船すると、ガランとした船内でカーペット敷きの一区画を占領し、売店でワンカップとつまみを買って、テレビで『プロ野球ニュース』のキャンプ情報など見たりするうちに出航時刻になった。

f:id:peepooblue:20200306194211j:plain

 窓外の闇の彼方に冷たく光る函館の街の灯がゆっくりと動き出すと、やはりなんとなくしんみりとした気持ちになる。

 船は方向転換をして港を出ていく。少しずつ遠ざかる街あかり。そして、名も知らぬ岬の灯台が一定の間隔で明滅しているのも心にしみる。

 とにかく、わずか1日余りの北海道旅行はこれにておしまい。