岩手雪まつり

  函館発の夜行フェリーで未明の3時15分に青森港に到着。寒空の下に放り出される。
 タクシーが2台ほど待っていたが、とりあえずフェリーターミナルの待合室へ。ベンチで寝ている人が1名いるほか、24時間営業のラーメン屋が運ちゃんたちで賑わっているが、どこか物寂しさを感じる。

 青森駅はすぐ近くだろうと思っていたが、ここから3.2キロもあることが判明。今日はこれから5時25分発の列車で盛岡方面へ向かうつもりなので、青森駅まで歩くことにした。タクシーもどこかへ行ってしまったので、それ以外に手段がない。こんな時間にヒッチハイクをしても気味悪がられて誰も停まってくれないだろう。

 ターミナルをあとに東へ向かって、てくてく歩きだす。さすがに冷え込んでいて寒い。住宅街の道で、通る車もほとんどない。まだ4時だというのに、こんなところを歩いているなんて、ワケのわからん旅だなぁ、と我ながら思う。

 とにかく、かき分けた雪が両側に積もった道をおよそ40分余りで青森駅西口に着いた。駅ビルのある東口とは対照的に、小さな待合室があるだけで、ローカル線の駅のようだ。

 自動券売機で八戸までの特急券(900円)を買い、ホームの売店で駅弁「わかどり弁当」やお茶などを買い込んで、盛岡行きの特急「はつかり2号」の乗客となった。

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 乗り込んだのは最近活躍の場がめっきり減った583系寝台兼用電車。青とクリーム色の車体で、子どもの頃、一番憧れたのがこの電車だった。当時は上野と青森を結んでいた「はつかり」の愛称も、意味は解らなかったけれど、カッコよく響いたものだ。僕の手元にある最も古い時刻表は父にもらった昭和47年11月号で、上野発青森行きの「はつかり1号」の時刻に青いペンで印がついている。上野駅から憧れの「はつかり」に乗って遠い遠い青森というところまで行ってみたいという子どもの頃の夢は今でも僕の旅への想いの根底をなしていると言っても過言ではない。旅先が北国に偏っているのもきっとそのためだ。ちなみに初めて青森まで旅したのは中学2年の時、憧れの「はつかり」に初めて乗ったのは中学卒業直後の春休みだった。583系にはそれより前の中2の夏に仙台~上野間の特急「ひばり」で乗車している(当時、ひばり1往復に583系が使用されていた)。

 

 さて、5時25分、「はつかり2号」は定刻に青森を発車して、ようやく明るくなった6時28分に八戸着。ここで下車するのは特急料金節約のためで、この先は7時12分発の盛岡行き各駅停車に乗り換え。ED75が牽く赤い50系客車の3両編成。こちらは通学生で賑やかだったが、峠を越える頃からウトウトしてしまい、気がついたらもう盛岡が近かった。9時22分着。

 これから小岩井農場で開催中の「岩手雪まつり」を見物に行ってこよう。

 盛岡駅構内の喫茶店「スタシオン」で紅茶を飲んでから駅前10時35分発の小岩井農場行きバスに乗車。

 市街地を抜けると、のどかな田園風景で、岩手山も雪をかぶった真っ白な姿を見せている。天気も最高。こんなに暖かくて雪まつりは大丈夫かと心配になるぐらい春めいている。

 バスの車窓はやがて白い高原風景に変わり、11時10分に小岩井農場雪まつり会場に到着した。

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 会場はかなり賑わっていた。岩手県出身の宮沢賢治の作品をテーマにした雪像などがいくつも並んでいるが、なんだかどれも薄汚れている。雪不足で、雪を集めるのにも相当苦労したのだろう。足元は積雪もほとんどなく、一部で地面が露出している。暖かいので、雪像はみんなポタポタ汗をかき、骨格の針金がのぞいた雪像もある。カマクラも天井に大穴が開いている。というわけで、自衛隊の人たちが補修作業に大わらわなのだった。

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 なんとも情けない雪まつりだが、たくさんの自衛隊員が巨大な山猫に取り付いてスコップで雪を塗り付けている光景はこの国が平和な証拠でもある。とりあえず、見物客は楽しそうだし、僕も甘酒を飲んだり、レストランでラムのチーズソース煮、(1,200円)を食べたりして満足し、雪まつりだけでなく、農場も見学して、またバスで帰ってきた。

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 この日は盛岡14時55分の列車で花巻へ行き、花巻温泉郷のひとつ、大沢温泉の「山水閣」に泊まる。1泊2食付きで7,000円也。旅館の仲居さんの話でも、今年は記憶にないぐらい雪が少ないということだった。

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 旅はもうおしまいなので、渓流沿いの露天風呂につかって、のんびり過ごし、翌日は北上から新幹線で帰京。