さようなら、対馬
対馬最大の町・厳原(いづはら)の北、阿須浦の民宿で迎えた朝。
ベランダから眺める海は薄青く静かに凪いで、風も心地よい。赤とんぼが飛び交い、屋根の上ではイソヒヨドリがさえずり、上空をトンビがのどかに旋回している。青い矢のように飛び去ったのはカワセミだ。すべてが美しく、愛しい。いつまでもこの島に留まっていたいと思うが、今日でお別れである。
宿のおばあさんに玄関先で見送られて8時前に出発。厳原の町並みを心に焼きつけながらゆっくりと走り抜け、港を睥睨する巨大な立亀岩を見上げ、フェリーターミナルに到着。すでに船に乗る人たちが集まっている。韓国人のおじさんばかりの団体もいる。観光だろうか。
(厳原の町並み)
(厳原港に停泊するフェリー)
8時半から切符の発売開始。今度の便は博多まで直行(ほかに壱岐経由もある)の九州郵船「ニューつしま」で、運賃は自転車込みで4,400円。自転車の客はまた僕だけのようで、一般客とは別に車両甲板のハッチから乗船なので駐車場で待機する。岸壁から眺める海にはサヨリみたいな細長い魚がたくさん泳ぎ回っていた。
一般の乗客より先に船首のハッチから愛車とともに船に乗り込み、まだ誰もいない2等船室に自分の居場所だけキープして、甲板で船出を待つ。港の風景を眺めながら、もう自分は対馬の土の上にはいないのだなぁ、と思う。
9時30分、「ニューつしま」は厳原港の岸壁を離れた。この瞬間から対馬との間に確実に距離が生まれ、対馬の旅はもう手の届かない過去へと遠ざかっていく。強い風に吹かれながら、水平線の彼方に霞んでゆく対馬の島影をもうしばらく眺めていよう。
(遠ざかり、霞んでゆく対馬の島影)
博多まで4時間弱の航海。壱岐の島影を西方に望み、トビウオの群れを蹴散らしながら、船は玄界灘を渡っていく。
(壱岐の島影)
昼食に船内のスタンドでソバを食べていると、韓国人グループもやってきて、ソバやウドンやカレーライスを注文し、それぞれに猛然と七味唐辛子をかけている。カレーライスにまでジャンジャンかけている。さすがにキムチの国の人たちである。ウドンの汁だけ先に飲み干してしまい、汁のおかわりを催促している人もいた。
すれ違う船舶の数が増え、有人の島が次々と現われると博多湾が近い。
霞んだ海の向こうに高層ビル群や鈍く輝く福岡ドームの屋根も見えてきた。大都会に戻ってきたな、と思う。
船は定刻より5分ほど遅れて13時20分に博多埠頭に接岸した。
博多
博多はじつは初めてである。のどかな対馬とは全くの別世界。お上りさん気分で街を走り出す。
長浜、天神、中洲、平和台、キャナルシティ、大濠公園…。今夜はこの街に泊まって、福岡ドームに野球観戦に行こうと思う。
(大濠公園)
ところで、東京へどうやって帰るか。門司まで走って、来た時と同じフェリーで帰るか、あるいは新幹線または夜行列車で輪行して帰るか、といろいろ検討したが、結局、今年の春に就航したばかりの博多と新潟県の直江津を結ぶ九越フェリーを予約した。直江津からは上野行きの夜行列車に乗り継げるはず。フェリーの出港は明日の夜なので、それまで時間はたっぷりある。
さて、その晩は市内のホテルに宿を取り、ホテルから自転車で10分ほどの福岡ドームでダイエーホークス対西武ライオンズの試合を観戦。
現在、最下位争いをしているチーム同士の対戦だったが、この日は地元ホークス打線が西武先発の渡辺久信を打ち込み、3回途中でKO。その後も吉永幸一郎の本塁打などで計9得点。投げては今年日本ハムから移籍してきた武田一浩が好投して西武打線を完封。9対0で快勝して、満員の大観衆も大いに盛り上がった。福岡という街の体温を感じるにはこれが一番である。
しかし、これだけ熱狂的なファンと立派な球場がありながらホークスが万年Bクラスというのは情けない。福岡の人々が気の毒でもある。ホークスにはもう少し頑張って欲しいと思う(というのが当時の正直な心境でしたが、その後のホークスの大躍進は皆さん、ご存知の通りです)。
試合終了後は照明を落としてのレーザーショーや花火。最後はドームの屋根が開けられ、夜空が徐々に広がっていくのが妙に感動的だった。
球場を出ると、また雨になっていたので、まっすぐホテルに帰る。
ついでに、この日の試合の両チームの先発メンバーを書いておく。
(中)大友進
(遊)松井稼頭央
(捕)高木大成
(一)清原和博
(三)鈴木健
(右)D.ジャクソン
(指)佐々木誠
(左)垣内哲也
(二)桜井伸一
(投)渡辺久信
(左)村松有人
(遊)浜名千広
(中)秋山幸二
(二)小久保裕紀
(捕)吉永幸一郎
(指)大道典良
(三)松永浩美
(一)藤本博史
(右)湯上谷竑志
(投)武田一浩