鈴木祥子/Long Long Way Home (1990)


 鈴木祥子は旅する音楽家である。べつに各地を旅行しながら音楽活動を行っているという意味ではない。つねに旅人の視点、あるいは旅する精神の持ち主とでも言ったらいいだろうか。そもそも人間には2つのタイプがある。共同体の一員であることにこだわる村人型と、ひとつの共同体に安住できずに(本当の?)居場所を常に探し求める旅人型。はっきり分類できるわけではないが、皆それぞれにどちらかの傾向をより強く持っているのではないか。言うまでもなく、鈴木祥子は後者であろう。このアルバムは「帰る場所を探すための旅」がテーマになっている。ところが、アルバムの最後に収められた曲のタイトルは「どこへもかえらない」。そこには、ひとは誰もが孤独であることへの深い自覚に基づいたポジティブな開き直りすら感じられる。
 この4枚目の作品までの彼女は、アコースティック系のサウンドの印象もあってか、大人しく、清楚で、どこか儚げなイメージに包まれていた。そこに彼女自身は違和感を抱いていたという。そんなパブリックイメージを振り払うべく、これ以降、徐々に独自の道を歩み始める。過渡期的な作品である次作「Hourglass」を経て、帰るべき場所を持たない者の強さと弱さを生々しく表現するロックミュージシャンへと変貌していくのだ。それは従来のファンの少なからぬ数を失う結果になったかもしれないが、同時に新たな共感者を得ることにもなった。「Long Long Way Home」はそうした鈴木祥子の音楽人生の転換点になった記念碑的作品。音楽的にも完成度が高い、美しく魅力的なポップアルバム。
この作品を繰り返し聴いていたのはもう20年も前のことなんだなぁ。あの頃、彼女がDJをしていたFM番組の録音テープ、まだあるかな。探してみよう。

Long Long Way Home

Long Long Way Home