越谷オサム『くるくるコンパス』

くるくるコンパス

くるくるコンパス

 最近ハマっている越谷オサムの最新刊。
 40代を迎えた主人公の中学時代の回想物語。
 将棋部といえば、地味な部活の代表格みたいに思われがちだが、まさにそんな将棋部の、あまりモテなさそうな男子3人組(カズト、ユーイチ、シンヤ)のちょっとした冒険譚。将棋部唯一の女子で、大阪に転校してしまった佳織に会うため、京都・奈良への修学旅行の途中で教師の厳しい監視の目をかいくぐり、班別自由行動のコースから抜け出して大阪をめざす3人。さて、彼らは大阪で目的を果たして、同じ班の女子と約束した3時までに京都に戻ってこれるのか…。と書くと、あまりに他愛ない話なのだが、彼ら3人があまりに頼りないので、思わぬ波乱に満ちた冒険になってしまう。
 タイトルのコンパスは言うまでもなく方位磁石のこと。小学校時代の学習雑誌の付録だったコンパスで方角を確かめながら、「ゴドウスジ線(⇒御堂筋線)の乗り場はどっちだ」などといいつつ、大阪の街をさまよう3人がかわいい。
 とにかく、作者の描きだす人物のキャラクターがそれぞれに魅力的なのは相変わらずで、そのため物語に引き込まれ、一気に読めてしまう。
 そして、この小さな冒険がその人生にも影響した3人のその後まで語られ、最後はちょっとしんみりする。