Acoustic Asturias Live

 南青山のMANDALAでAcoustic Asturiasのライヴ。前回は同じ場所で昨年9月2日だったので、ちょうど1年ぶりだ。メンバーのクラリネット奏者・筒井香織さんがパリに留学したまま音楽活動の拠点をフランスに移してしまい、彼女の帰国スケジュールに合わせて日本でのライヴを行うということから、こんな具合になっている。前回は5年ぶりのライヴだった。
 昨年のライヴ映像。

 そもそもアストゥーリアスは大山曜さんの音楽プロジェクトとして1980年代後半からスタートし、日本のマイク・オールドフィールドと評されるようにゲストミュージシャンを交えながらも、基本は大山氏がいくつもの楽器を自分で演奏して、コツコツとダビングを重ねながら緻密な音楽を作り上げていくというレコーディング主体の活動スタイルだったが、しばらく活動休止後に2003年、室内楽編成のアコースティック・アストゥーリアス(アコアス)として活動再開。さらにロックバンド形式のエレクトリック・アストゥーリアス(エレアス)も始動。さらに一人多重録音のマルチ・アストゥーリアスとしても作品制作も再開し、いまは3つの形態で活動している。
 そのなかで筒井さんの渡仏以降、活動ペースが落ちていたアコアスだが、1年に1度でもこうしてライヴが行われるのは嬉しい。今回はチケットがあっという間に完売となったため、いつのまにか昼の追加公演も決定していて、昼夜の2ステージとなったのだが、僕は夜だけ観てきた。
 最寄り駅は外苑前だが、僕は新宿から大江戸線に乗り、南青山一丁目で下車。地上に出るとポツポツと雨が降り出していて、会場に着く頃にはザーッと強い雨になった。


 18時15分開場。19時開演。
 昨年のライヴではリーダーの大山氏が手首を痛めて演奏できず、代役として西村健さんがギターを弾いていたのだが、その後、アコアスはクラシック音楽に近い演奏形態で、練習に多くの時間が必要なため、作曲などほかの音楽活動との両立が困難との理由で、アコアスのライヴに関しては大山氏は作曲、プロデュースなど裏方に専念し、西村氏が正式メンバーとして参加するということが発表されていた。
 ということで、今日のメンバーも川越好博(ピアノ)、テイセナ(ヴァイオリン)、筒井香織(クラリネット&リコーダー)、西村健(ガットギター)という4人。
 1曲目、WATARIDORIからスタート。これは東京とパリを結んだリハーサルの映像。

 アコアスの音楽は変拍子だらけで、めまぐるしく展開する曲の構成も複雑で、演奏難度が異様に高そうなのだが、聴く側にしてみれば、難解とはまるで感じない。ヴァイオリンとクラリネットとピアノとギターが互いに主役になったり脇役に回ったりしながら、ソロで歌ったり、掛け合ったり、ハーモニーを奏でたり・・・。癒し系と評されることもあるが、癒されるというよりは心の中で静かにじわじわと興奮が高まってくる感じ。アコアスはロックなのだ。
 従来のアコアスはメンバーが一心不乱に演奏し、聴衆も集中して真剣に聴くというクラシックのコンサートに近い雰囲気だったが、大山氏がステージに立たなくなり、川越氏とテイさんがMCを担当するようになって、ちょっと雰囲気が変わってきた。ふたりともMC原稿を手にして喋るのは昨年と同じ。もともとテイさんはステージ上で喋ることはほとんどなく、伏し目がちにひたすらヴァイオリンを弾きまくるという、かなりミステリアスな存在だったのだが、近年は演奏中も表情が豊かになったし、かなり印象が変わってきた。
 6年ぶりに演奏された筒井さんの曲。原題はフランス語なのだが、日本語でいうと「やわらかな回廊」。筒井さんがイタリアの美術館で、体調が悪かったせいか、床が波打っているような奇妙な感覚を味わい、それを表現したという話も曲そのものも記憶に残っていた。フランスではクラリネット奏者&現代音楽系の作曲家として活動している筒井さんらしいいろいろな意味でハードな作品。
「演奏している私たちもめまいがしそうです」とテイさん。
「どうもすみません」と筒井さん。
 ここからテイさんが筒井さんのフランスでの生活についてインタビューするコーナーが唐突に始まる。
「フランスにも台風って来るんですか?」というのが最初の質問(笑)。
「それはまじめに答えるんですか」と筒井さん。彼女によればフランスには台風のような熱帯地方からの嵐は来ないが、激しい雨が降ったり、強風が吹き荒れる日は普通にあるとのこと。その風の音が日本とは違うのだという。劇場で「嵐が丘」のような芝居に使われる効果音の風の音そのままで、思わず窓を開けて聞き入ってしまうそうだ。
嵐が丘って知ってますか?」と筒井さん。
「エレアスの曲ですか?」とテイさん。ボケたのか、まじめなのか。客席&メンバー爆笑。たしかにエレアスにそういう曲がありますね。
「今年の日本は猛暑でしたけど、フランスはどうですか?」というのが次の質問。
「日本と違ってフランスは湿度が低いので、日本人にとっては涼しいぐらいですけど、フランス人は暑くてもうムリなんて言ってます。フランスにはエアコンのある家が少ないので、高齢者が暑さで亡くなることも多くて社会問題になっています」
 この辺から「なんの話をしてるんだ」という川越氏も客席も笑いが止まらなくなる。
「フランスは物価が高いそうですね」
「日本は消費税がすべて8%ですけど、フランスは肉や野菜などの食品は0%なので、そんなに高く感じません。でもレストランなどの外食は20%なので、たとえばラーメンは・・・」
「一体いつまで続くんだ(笑)」という川越氏の一言で、このフリーすぎるトークは強制終了。続きは次回ということだったが、「ラーメンは・・・」の続きがちょっと気になった。
 筒井さんがフランス語で解説する「ユハンヌス」。

 そして、演奏が始まれば、また一糸乱れる超絶アンサンブル。
 大山氏作曲の「深夜廻〜テーマ」のアコアス版。元はゲーム音楽らしい。僕はゲーム音楽についてはほとんど知らないのだが(ハマるのが怖くて、近づかないようにしている)、このジャンルはある意味何でもアリの世界で、最もクリエイティヴな才能が集まっているといえるのではないか。アストゥーリアスのメンバーもゲーム音楽の作曲や演奏にかなり関わっている。たぶん、そちらのほうがお金にはなるのだろう。

 あっというまに前半が終わり、休憩をはさんで第二部。女性陣は衣装をチェンジして出てきたが、男性陣はどうだったかな。
 後半戦では曲の合間に撮影タイムなるものがあった。今日のライヴは(というか、普通はみんなそうだが)、撮影および録音は禁止なのだが、曲間トークの時に自由に撮影できるコーナーが設けられたのだ。メンバーはコードを決めて適当に音を出しながら演奏しているフリ。



 その後、曲の拍子を数えるのが大好きだという川越氏による変拍子を数えてみようというコーナーも。パット・メセニーの「First Circle」に出てくる11拍子のハンドクラップに刺激を受けたらしい。川越作品の「氷雨」(「ひさめ」ではなく「こおりあめ」)の曲中の8分の5拍子と8分の2拍子、8分の3拍子、8分の6拍子が不規則に連続するパート。僕の能力ではとても数えきれない。普通のリズムではないことだけは分かる。
 参考までにPat Metheny/First Circle。曲冒頭のハンドクラップを何拍子なのか数えてみよう、というような話だ。

 こういうやたらと複雑な曲を作って演奏することに喜びをおぼえる人たちなわけだが、昼夜二公演(セットリストも半分は入れ替えたらしい。両方観ればよかった)で、心身ともに大変ではあったようだ。
 後半もあっというまにラスト。筒井さんの「ルカ組曲」。

 そして、アンコールは「Distance」と「Ryu-Hyo」だった。

 過去にアコアスはフランス&イタリアツアーを行ったりもしているが、せっかくメンバーがフランスで活動しているのだから、またフランスでのライヴの実現を期待してしまう。彼らの音楽はヨーロッパでは絶対に受けると思うし、世界中どこでも通用するはずだと確信しているので。

Bird Eyes View: Acoustic Asturias

Bird Eyes View: Acoustic Asturias

Marching Grass On The Hill

Marching Grass On The Hill

レジェンド・オブ・ゴールド・ウィンド

レジェンド・オブ・ゴールド・ウィンド

 終演後。雨は上がっていて、外苑前交差点からは神宮球場の照明塔がまだ明るかった。去年と同じヤクルト対広島戦で、昨年は近くのスタバがカープファンで真っ赤に染まっていて、それだけでカープが勝ったんだな、というのがすぐに分かったが、今日は球場帰りのカープファンもさほど盛り上がっていない。今日はヤクルトが勝ったのか、と思ったら、その時点(21時半ごろ)ではまだ試合が続いていて、最終的にはやっぱりカープが勝った。優勝マジック15。リーグ3連覇はもう間違いない。