がんばれ猛虎号

 朝9時44分に大阪着、と書くと、早朝の新幹線で来たみたいだけれど、実は昨夜遅く東京を発ち、鈍行を乗り継ぎ、10時間以上もかけて、ようやく辿り着いたのである。このスピード時代にそんなバカなことをするのは珍種の人間に属するはずだが、それでも列車は満員であった。お陰で座席は窮屈で、しかも冷房が効きすぎで寒くて寒くて、僕はほとんど眠れなかった。
 というわけで、眠い目を擦りながら大阪駅のホームに降り立ったわけだが、今日はこれから西宮市の祖父母宅に一晩泊めてもらい、明日から山陰方面を旅することにしている。

     ガンバレ猛虎号

 祖父母の家の最寄り駅は甲子園口なので、ここで乗り換えだが、その前にトイレに行こうとホームの階段を降りて、一瞬たじろいだ。なんだ、これは?!
 異様な熱気と明るい狂気。阪神タイガースの応援団らしき人々が大集合しているのだ。老若男女、みなさんそれぞれにタイガースの帽子をかぶり、ユニフォームやハッピで身を包み、メガホンを手にした上に、帽子の両脇に小旗を立てたり、バッジをつけたりと、いずれも熱狂的なタイガースファンであることを誇示しあっている。
 一体何ごとか、と見ていたら、そのイエローな人々が駅員の誘導でゾロゾロと動き出した。見るからに陽気な団体とそれをマジメに誘導する駅員の制服姿の対比がなんともおかしい。
 それにしても、彼らは一体どこへ行くのだろう。甲子園球場なら阪神電車に乗ればよいわけだし…。テレビの取材まで来ていたので、僕もついでに映ろうとしたけど、ダメだった。
 とりあえず、用を足し、再びホームに戻って、やっとワケが分かった。隣のホームに「ガンバレ猛虎号」なるステッカーを貼った列車(たしか12系客車だったと思う)が停まっているのだ。考えてみれば、今日のタイガースは共に首位(!)を争うカープと広島で試合があるはずで、つまり、あの人たちははるばる広島まで応援に行くらしいのだ。
 応援団が続々と乗り込んだ「猛虎号」の車内では早くも『六甲おろし』の大合唱が始まった模様。広島まではたぶん4〜5時間はかかると思うのだが、ずっとあんなハイテンションで行くのだろうか。まぁ、今年ほど強いタイガースなんて滅多に見られるものではないが、それにしても、はるばる広島への応援ツアーにあれだけの人々が集まってしまうあたり、やっぱり本場のタイガースファンはスゴイ!と妙に感心してしまった。

 一足先に発車した西明石行きで甲子園口駅に着き、ホームを歩いていたら、「猛虎号」が敵地・広島へ向けて勇ましく進撃していった。
 しかし、どうせなら、あんなちゃちなステッカーではなくて、車体を大胆な虎の縞模様に塗り替えるぐらいのことをして、東京の水道橋駅にでも乗りつけて欲しいものである。

 さて、その晩、関西地区の新聞やテレビでは「猛虎号」のことが大きく報じられ、試合はタイガースが主砲ランディ・バースのホームランなどで快勝した。広島へ行ったファンもわざわざ遠征した甲斐があったというものだ。まずはめでたし、めでたし。それにしても、今世紀中の優勝は無理とまで言われていた阪神タイガース、本当にこのまま21年ぶりの優勝へ向けて突っ走ってしまうのだろうか。←結果はもちろん、みなさんご存知の通りです。
 何はともあれ、明日は山陰方面へ向かう。