日原林道

 奥多摩・日原(にっぱら)の旅の続き。

(これでも東京都内)
 一番の目的だった鍾乳洞見物を終えてもまだ10時半過ぎ。
 ということで、鍾乳洞の前でもらった案内図によると、近くに「ガニ沢のカツラ」と呼ばれる巨樹があるそうなので、とりあえず訪ねてみよう。日原街道から分かれ、日原林道に足を踏み入れる。すぐに日原渓流釣場があるが、素通りして奥地へ向かう。実は巨樹以上に何か野生動物(クマ以外)が出てこないか、と期待しているのだが…。
 日原川に架かる橋を渡り、左岸から右岸に移ると、未舗装の道になった。

(日原川本流)


 いま辿っているのが日原川本流の谷であるようで、どこまでも登っていけば、東京都の最高峰・雲取山(2,017m)に通じるようだ。
 ただし、谷が深く、崖っぷちを続く林道のずっと下に水が流れている。
 見上げる山々には岩が露出した崖も多く、カモシカでもいないか、と探してみるが、そう簡単には見つからない。でも、ここらにカモシカやシカ、クマなどの野生動物がいることは確か。日本の本州以南に生息する野生動物はほぼすべて奥多摩にいるらしい。

 しばらく行くと、こんなものがあった。

 石灰石を採掘する奥多摩工業の施設で、対岸から石灰石を運んでいたようだ。ケーブルも錆びついているし、もう稼働していないのだろう。



 日曜日だからか、施設のゲートも閉鎖されている。採掘場が今も操業しているのかどうかも分からない。

 ところで、ここも含め日原地区の至るところに情報提供を求めるチラシが貼ってあるが、今年6月から行方不明の登山者がいるようだ。僕は登山と呼べるような登山はほとんどしたことがないが、山は怖い。いつどこでクマと遭遇してもおかしくないから、ちょっとした物音も聞き逃さないように全身を耳にしつつ歩く。といっても、すべての音を掻き消すぐらいの水音ばかりが絶えず聞こえているのだけど。


 こんな林道でも、時折、車がとまっている。そこで崖下をのぞくと、渓流釣りをする人の姿が見える。一体、この急斜面をどうやって下りたのかと思うが、どこかに釣り人のつけた獣道(?)みたいなものがあるのだろう。
 めざす巨樹も見つからないし、そろそろ引き返そうか、と思い始めた頃にようやく「ガニ沢のカツラ」があった。急斜面を下った場所にそびえている。
 一応、小径がつけられていて、おそるおそる下りて、大きなカツラの木と向き合った。
 カツラの巨木というと、北海道の阿寒湖畔で見たのを思い出すが、こちらは高さ約31メートル、幹周り7.1メートルとのこと。

(「ガニ沢出会いのカツラ」)

 何本もの幹に分かれて伸びる姿はカツラの特徴なのだろうか。北海道で見たのもこんな姿だった。



 コケに覆われた巨樹。





 そこで水辺まで下りて、清らかな流れをしばらく眺め、引き返す。
 山々は高いところから秋の装いに変わりつつある。


 ヒガラやシジュウカラなどの声が銀色のしずくのように降り注ぐ道を戻っていく。日原鍾乳洞に標高630メートルと書いてあったから、ここはもう700メートルぐらいはあるはずで、さすがにセミはもういないな、と思ったら、ツクツクボウシが鳴いていた。

カモシカ、いないかなぁ…)

 日原街道に戻ると、鍾乳洞へ行く人たちの車がちょっとした渋滞になっていた。鍾乳洞の駐車スペースが少なく、道が狭いから路上駐車も不可。ということで、駐車場の順番待ちになっているようだった。平日は路線バスが鍾乳洞まで来るのに土曜休日は2キロ手前の東日原止まりなのは、この渋滞でバスも入ってこれない、ということなのだろう。

 さて、日原集落へと向かう途中に「幽水栃の雫」という湧水があり、斜面上に「水垂のトチ」という巨樹がそびえている。道が通じているので登っていくと、スズメバチが寄ってきたので、逃げてきた。あたりには栃の実がたくさん落ちていた。


 下の道路からでも栃の木は見えるので、それで満足して日原集落まで戻ってきた。途中でテンらしき動物のフンを発見(写真はない)。

(稲村岩)

 この先、また明日に続く。