小湊鉄道の旅3

 7月8日(土)に千葉県のローカル線、小湊鉄道沿線を旅した時の話の続き。 
 月崎駅で「里山ロッコ1号」が緑のトンネルの中へと遠ざかっていくのを見送ったところから。


 月崎駅から次の上総大久保駅まで歩こうと思ったが、道を間違えて1時間半近くもムダに歩いて、また月崎駅に戻ってきたところでトロッコ列車に遭遇したわけだが、まだ次の列車まで1時間以上もある。となれば、やっぱり上総大久保まで歩こうと思う。あまりに暑くて、先ほど、ここに戻ってきた時にはもうそんな気にはならなかったが、少し休んだら気力が回復した。
 というわけで、改めて上総大久保駅をめざして歩き出す。4.6キロの道のりである。
 最初の分岐点で先刻は上総大久保駅の方向を示す道標に従って右へ行ったら道が分からなくなったので、今度は「養老渓谷・大多喜」の方面標識に従い左へ行く。
 薄暗い山林の中を抜けると、すぐに小湊鉄道のか細いレールが見えてきた。線路は短いトンネル(月崎第二隧道、長さ20m)を抜けてきたところである。
 あとは左に線路を見ながら行けばよい。もう迷うことはない。線路の両側はちょっとした草地になっていてアジサイが植えられている。
 山あいの道で、サルでも出てきそうだな、と思いながら歩いていたら、右手の林がざわつき、何かと思ったら、カラスだった。なーんだ。
 しばらくしたら、また右手のやぶで動物の気配があって、目を向けたら、今度はシカだった。すぐにやぶの奥に逃げ込んでしまったが、鋭い警戒の声が2回聞こえ、そこへバイクが猛スピードで騒々しく走り過ぎたので、さらにもう一度鳴いた。
 しばらく待てば、シカはまた姿を見せるかもしれないと思ったが、そのまま歩き続ける。
 小湊鉄道は緑の中に姿を隠し、長さ421メートルの大久保隧道をくぐる。道路の両側が険しい崖になった。鬱蒼とした雰囲気で、岩はコケに覆われ、地面にはシダ類が繁茂している。小湊鉄道沿線を旅すると、植物の旺盛な生命力に圧倒される。日本列島を支配しているのは人間ではなく植物たちなのだな、と実感する。


 やがて、道路もトンネルへ。


 トンネルを抜けると、まもなく再び田園風景が広がり、線路とも再会。大久保はもうすぐだ。そして、養老渓谷で折り返したトロッコ列車ももうすぐやってくるはずだ。

 しばらくすると、汽笛が聞こえた。
 来るぞ。
 緑の中から姿を現すであろう列車を待つ。養老渓谷に機関車の向きを変える転車台はないだろうから、復路は機関車が後ろ向きで列車を引いているのだろうと僕は想像していた。
 しかし、違った。
 列車は機関車を牛久寄りに付け替えることなく、往路と同じ編成のまま、バックしてきたのだ。

 この写真を見たら、誰もが列車は画面右へと走っていると思うだろうけれど、機関車が後押しして、左へと進んでいるのだった。




 かつて上野発の夜行列車が行き止まり式ホームに入線する時、尾久の車両基地から機関車の後押しで客車の列がゆっくりと入ってきたものだが、あれと同じ方式か。機関車に乗務する機関士とは別にトロッコの先頭部にも運転要員がいるのだろう。

 トロッコ列車はこの後、もう1往復あるので、帰りに乗ってみることにして、とにかく上総大久保駅をめざす。
 田んぼの中にアオサギがいて、写真を撮ろうとしたら、飛び立った。

 13時10分頃、上総大久保駅に着いた。植物の群れに押しつぶされそうな小さな駅だ。トトロのいる駅。

 ウグイスがさえずり、ニイニイゼミが賑やか。



(地元の小学生たちが描いたものらしい)


 次の列車は13時30分発。まだ少し時間がある。ツーリングのライダーがやってきて、しばらく休憩していった。

 ニイニイゼミの抜け殻。

 駅のそばには小さな池があり、湧水が流れ込んでいる。トンボが飛び交い、アメンボがたくさんいる。アカガエルもいた。


 夜になれば、獣たちが水を飲みにやってくるのかもしれない。

 13時30分発の列車がやってきた。上総中野行きで終点まで行く。


 上総中野13時42分着。接続するいすみ鉄道の列車が待っていた。



 里見〜上総中野間の通行手形といえるタブレットを持った運転士が反対側の運転席へ。

 ムーミンのキャラクターが描かれたいすみ鉄道の車両。





 暑さ対策なのか、エンジンに水をかけている。

 上総中野に特に用事はないので、14時04分発で折り返す。

 つづく