7月8日に千葉県のローカル線、小湊鉄道の沿線を旅した時の話の続き。
終点の上総中野で折り返し、14時04分発の五井行きに乗り、次の養老渓谷駅に14時12分着。ここで下車。
この駅の駅舎も国の登録文化財である(養老渓谷〜上総中野間の板谷隧道も文化財)。
この駅には足湯がある。2人連れの先客がいた。
ズボンの裾をまくって足を入れると、冷たい。温泉ならぬ冷泉だ。気持ちいい。
しかし、2つある浴槽のうちのもうひとつに足を浸けている2人連れは「熱いね」などと言っている。
「そっちは熱いんですか?」
「そうなんです、熱いのと冷たいのと両方あるんです」
2人は冷たいほうに移動してきた。僕はもうひとつに足を入れてみた。
なるほどけっこう熱い。温かい、よりちょっと熱めといった感じ。まぁ、これはこれで気持ちいいけれど、やはり今日は冷たいほうがよい。
あとからさらに2人来て、熱いほうに足を浸けているので、彼らにも「こっちは冷たいですよ」と教えてあげる。
足湯小屋の隅にアマガエルがうずくまっていた。
間違って熱い湯に飛び込まなければいいけれど。
駅前では地元の産物の直売をしていて、「あさりいなり」を買う。2個で220円のはずが、売れ残りだからか100円だった。美味。
さて、ここからはトロッコ列車に乗ってみよう。15時13分発の「里山トロッコ4号」がある。運賃のほかに500円の乗車整理券が必要で、2日前までに申し込むように書いてあるが、「当日券あります」の掲示が出ていて、窓口で買えた。
窓のないトロッコ列車なので、梅雨の時期限定サービスで「雨」と「飴」をかけてサクマドロップのおまけ付き。
もちろん、今日は雨の心配はなく、絶好のトロッコ日和だ。
15時ちょうどに汽笛が聞こえて、「里山トロッコ3号」が到着。
SL風ディーゼル機関車。けっこう本物っぽく見える?
外観はSL風だが、運転台内部はさすがにSL風とはいかない。バック運転に備えたモニターもある。
運転士の服装はSL機関士風。
4両編成の客車は両端が窓のある車両、真ん中の2両が窓なしのトロッコ車両。僕はトロッコに乗車。空いている。
15時13分に発車。列車はゆ〜っくりとバックで動き出した。
緑の風が車内を吹き抜け、気持ちいい。この手のトロッコ列車は全国各地で運転されているが、僕はまったく初めて。想像以上に気持ちよくて、楽しい。
有形文化財に登録されている第四養老川橋梁。長さ78メートル、高さ20メートル。
鉄橋の真ん中で停車するサービスがあったりするのかと思ったが、それはなかった。
先ほど訪ねた上総大久保駅は通過だが、通過駅でもすべて安全確認のため一旦停止。
先ほど僕がトロッコ列車を撮影した場所。
これも登録有形文化財の大久保隧道。車掌さんにもらった案内パンフレットによれば、トンネルの長さ421メートルは房総最長らしい。
先ほど歩いた道と並行する区間。アジサイが咲いている。シカを見たのもこのあたり。
月崎駅。
夏の日差しがまぶしい田園地帯を走ったり、薄暗い森の中に入ったり、地層がむき出しの切通しを抜けたり、トンネルに入ったり。まったく退屈しない。ゆっくりなのが嬉しい。いつまでも乗っていたい。そんな気分にさせられる。ひっそりとヤマユリも咲いていた。
これも文化財の月崎第一隧道。134メートルに突入。
飯給駅。これで「いたぶ」と読む。
曲がりくねりながら流れる養老川を見下ろす。
この列車の唯一の途中停車駅、里見。上総中野行きが交換待ち。
対向列車の乗客からも注目を浴びる。
里見到着15時45分。普通なら18分ほどの区間に32分を要した。でも、まったく問題ない。
この駅も駅舎が文化財登録されている。
里見はタブレット交換が見られる貴重な駅だ。
鉄道用語としてのタブレットは通行手形のようなもので、単線区間で特定の駅間(閉塞区間)に1つのタブレットしか存在せず、それを持たなければ列車が進入できないようにすることで列車同士の衝突を防ぐ仕組みである。かつては全国の単線区間で採用されていたが、今どき、こんな古典的な方法を残しているのは希少だ。小湊鉄道では上総牛久〜上総中野間で行われていて、途中の里見で区切られた2つの区間にそれぞれ1本の列車しか入れないようになっている。
客車最前部にいる運転士が革製のキャリアに収めた里見までのタブレットを駅員に渡し、対向列車が携えてきた里見〜上総牛久間のタブレットを受け取れば出発進行! まさに文化財的、いや国宝級の光景だ。
先に着いていた上総中野行きは里見〜中野間のタブレットを受け取るまで発車できない。駅員さんはそのタブレットを持ったまま、この列車を見送っている。
山あいの区間を抜けて、車窓が広々としてきた。
トンボがスィーッと車内を通り過ぎてゆく。
汽車のシルエット。沿線のあちこちで子どもたちが手を振っている。女性の車掌さんが手を振り返している。
養老川をせき止めたダム湖の高滝湖が見えてきた。
高滝駅も駅舎は文化財。使われなくなった下り線ホームにはラベンダーが咲いている。
高滝を発車すると、ダムで幅が広がった養老川を渡る。
上総久保駅。大イチョウがシンボル。
カーブの向こうに上総鶴舞駅が見えてきた。昔の面影を残す小湊鉄道の駅の中でも一番有名な駅で、映画やドラマ、CM、音楽PVの撮影に何度も使われている。今日も午前中、映画の撮影が行われていたらしい。
当然、この駅も登録有形文化財。駅舎のほか、貨物上屋、旧鶴舞発電所が登録されている。
この列車で牛久に着いた後、もう一度訪ねてみようと思う。
上総川間。
養老渓谷から58分、16時11分にこの列車の終点、上総牛久の1番線に到着。3番線には接続する五井行きが待っている。いやぁ、面白かった。
やっぱり平成の世とは思えないような鉄道風景だ。
本日のトロッコ運行はこれでおしまい。乗務員が総出で車内を清掃したり、窓を拭いたりしている。この後、五井に回送されるのだろう。