小湊鉄道の旅 '19(その3)

 8月18日、日曜日に出かけた小湊鉄道の話のつづき。現在、養老渓谷駅にいる。

 11時16分発の列車に乗り、小湊鉄道の終点、上総中野へ。

 小湊鉄道は起点の五井から養老渓谷までは市原市内だが、終点の上総中野だけが大多喜町に属している。

 山深い区間でトンネルを二つくぐって、房総半島の分水界を越える。これまでは東京湾にそそぐ養老川に沿って走ってきたが、ここからは太平洋にそそぐ夷隅川水系となり、少し土地が開けると終点の上総中野である。11時23分着。

 ここで外房の大原へ通じる、いすみ鉄道(旧国鉄木原線)に接続しているが、乗り換え列車の姿はない。

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 列車を降りると、その列車の写真を撮る、というのが小湊鉄道では普通の光景である。女性もカメラを向けている。昔は鉄道の写真を撮る女性はあまり見なかったが、最近はまったく珍しくなくなった。

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 燃えるようなカンナの花が夏の駅を演出している。

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 上総中野は無人駅。何もない駅なので、僕はすぐ折り返す。

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 上総中野ではわずか8分の滞在で、今乗ってきた列車に再び乗り込み、11時31分発。

 次は月崎駅で降りようと思う。

 前回(2017年7月8日)、月崎で降りて、隣の上総大久保まで歩いた。山越えルートを歩くつもりだったが、途中で道を間違え、炎天下、1時間半も無駄に歩いた末に月崎にいったん戻り、改めて線路沿いの道を大久保まで歩いたのだった。あの時、歩けなかったルートを辿ってみようという思いがずっとあって、今日こそは、と思っていたのである。

  

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 なので、月崎で降りるつもりだったが、途中で気が変わって11時44分に上総大久保で下車。ここから月崎へ向かうことにする。

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 緑の中にぽつんとある上総大久保駅。トトロがいそうな駅。

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 いた!

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 駅前に地図があり、月崎までのルートを確認。平成橋、柳川橋を通る道だ。

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 では、スタート。日傘をさして歩き出す。熱中症予防のためにも男女を問わず炎天下では日傘をさしたほうがいい。女性の中には「男の日傘はダメでしょ」などという日傘は女性の特権だと言わんばかりの声もあるが、「いいと思う」という声もあり、僕は今では普通に日傘(晴雨兼用の傘)を持ち歩いているし、使っている。でも男で日傘をさしている人をこの夏はまだ見ていない気がするな。

 それはともかく、上総大久保。いい駅だ。圧倒的な緑に押しつぶされそうな駅。夜更けに最終列車でこの駅に降り立ったら、どんな気分だろう。ちなみに終列車の到着は20時43分である(平日は20時58分)。

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 美しい田園地帯。前回はここでトロッコ列車の写真を撮った。今日ももうすぐ養老渓谷行きがやってくるはず。

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 それにしても暑い。ペットボトルの飲み物が残り少ない。この先では月崎までお店はもちろん、自販機すらないだろうから、ちょっと不安。

 上空を旅客機が頻繁に通る。羽田か成田かに降りるのだろう。かなり低いところを通過していく。

 セミが相変わらず賑やかで、シオカラトンボもたくさん飛んでいる。キリギリスも鳴いているし、バッタが飛び立ったりもする。

 田園をあとに道は山林の奥へとまっすぐ上っていき、まもなくトンネルが現れた。

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 トンネルの中はちょっと涼しい。

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 トンネルを抜けると、路上をトカゲのように素早く動く緑色のものがいて、何かと思ったらカマキリだった。

 道しるべがあった。大久保から1.2キロ地点。月崎まであと3.6キロ。「房総ふれあいの道」のうちの「森と梢のみち」というらしい。

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 緑陰の道は暑さもいくらか和らいで心地よいが、ほかに歩いている人はいない。車も通らない。

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 前回、月崎から大久保まで線路沿いを歩いた時、シカに遭遇したので、今回も期待しているのだが、こんな猛暑の日中は動物たちも活動しない。涼しくなる夕方まで森の奥でじっとしているのだろう。セミの声だけが騒がしい。

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 それにしても、本当に誰にも会わない。こんな暑い中を歩く物好きは僕だけ、ということか。

 途中、少し土地が開けても耕作放棄地のような荒れ地ばかりで、田畑もほとんどない。人家もない。

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 人の気配といえば、頭上を頻繁に通過する旅客機の音ぐらいである。

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 やがて橋があった。「平成橋」と書いてある。大久保駅前の案内地図にあった橋の名前だ。

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 橋の下をのぞくと、小魚が群れていた。

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 曲がりくねった道を歩いていると、カーヴの向こうから勢いよくバイクがやってきた。大久保駅をあとにしてから初めて人に会った。ツーリングのライダーらしかったが、カーヴの先に歩行者がいることなどまるで想定していないような飛ばし方だ。こちらも気をつけねば・・・。

 ウグイスの声を聞きながら歩いていると、滝があった。正確にいうと「茂平の滝」という看板があった。どこに滝があるのかはよくわからない。

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 近づいてみると、対岸の崖の上からわずかな水が落ちていた。

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 滝を過ぎて、清流沿いに下っていくと、ようやく人家が現れ、車とすれ違ったりもするようになった。

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 静かな集落を行くと、やがて柳川橋に出た。ここで県道に合流する。ここは前回通った。月崎からきて、ここで今歩いてきた道に入るべきだったのに、僕はそのまま県道を歩き続け、君津市に入ったところで道を間違えたことに気づいたのだった。

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(左へ行くのが僕が歩いてきた上総大久保駅方面。右は君津市久留里方面)

 改めて確認したが、「大久保方面」を示す道標は見当たらなかった。

 あとは前回も歩いた県道を行けば月崎駅に出る。交通量も多くなり、もうあまり面白くはない。カンカン照りで、日陰もほとんどないので、日傘が本当にありがたい。

 

 上総大久保駅から4.8キロ。1時間ほどで月崎駅に着いた。特に見どころがあったわけでもないが、面白かったとは思う。歩いてみて、よかった。

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 千分の10の勾配標の下に湧き水がある。

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 月崎駅には数人の観光客がいた。もうすぐトロッコ列車がやってくるようだ。以前は月崎駅では乗降はできなかったが、いつのまにか停車駅に加わっていて、乗車整理券を販売するための駅員もいた。前回は自由に出入りできた駅事務室が復活していて、何よりも入場券なしにはホームに出られなくなっていた。

 すぐにトロッコ号がやってきた。12時52分発。上総牛久行きなので、機関車が最後尾である。

 月崎を発車する里山ロッコ2号。

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 とりあえず、駅前のヤマザキショップでスポーツドリンクとパンを買い、駅で休憩。暑い。汗だくだ。扇子でひたすらあおぐ

 駅舎の軒下にはたくさんの風鈴が吊り下げられていて、風が吹くたびにチリンチリン、カランカランと音を立てている。でも、風鈴の音だけでは涼しくはならないのだった。

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 ところで、改めて時刻表を見ると、次の五井方面は14時21分発で、まだ1時間20分ぐらいあることが分かった。次に来るのは13時17分発の上総中野行きである。もうそちらには用はないが、ここにいても仕方がないので、また養老渓谷駅まで行くことにしよう。あそこには駅前に食堂もある。

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 というわけで、また上総中野行きに乗車。今度は珍しく3両編成だったが、先頭車両は貸し切りで「歌声列車」のヘッドマークを付けている。車内でみんなで歌いながら小湊鉄道を往復するというイベント列車のようだ。

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 再び上総大久保を通り、13時26分着の養老渓谷で下車。歌声列車一行もここで下車。おじさん、おばさんが大勢降りてきた。キーボードも下ろされ、アコーディオンを抱えた人もいる。そして、一行は駅前でもまた歌い始めるのだった。

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 僕は駅前の食堂で冷やし山菜そばを食べる。卵とかキュウリとか、冷やし中華みたいな具材のほか、オクラやタケノコ、キノコ類など色々のっていて、黒っぽいのはコウダケ(香茸)という幻のキノコだそうだ。美味しかった。

 テレビでは夏の高校野球をやっている。今日は準々決勝だ。

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 先ほどの列車が上総中野で折り返して、14時12分に戻ってきた。歌声一行も最後尾の貸切車両に乗り込む。五井までまた歌いながら帰るのだろう。

 一般客は前2両だが、先頭車は冷房が効いていないという情報が流れ、みんな2両目に乗り込む。こちらも確かに冷房は入っているが、あまり涼しくない。扇子が手放せない。

 今日はもうこのまま帰ろう。

 里見でまたトロッコ列車と行き違い。

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 今回は下車しなかった上総鶴舞駅

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 五井到着は15時15分。

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 小湊鉄道のホームから跨線橋を渡ってJRのホームに行くと、まるで夢から覚めたような、現実に引き戻されたような不思議な気分になる。

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 此岸から彼岸を眺めるような・・・。

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 そして、また小湊鉄道に乗りたくなるのだ。今日はもう帰るけど。